香港で2019年6月に起きた「逃亡犯条例改正」に反対する100万人デモから9日で5年。その後、統制強化が進んだ香港は中国との一体化が進み、それが「消費不況」をもたらしている。ただ、日本産水産物に関する対応は中国本土とは違った。【香港で小倉祥徳】
<100万人デモから5年の香港をもっと詳しく>
【前編】閉鎖、シャッター… 「中国化」で未曽有の消費不況 香港デモ5年
【後編】若者や子連れ世代、海外流出 金融や不動産も低迷 香港デモ5年
香港島の繁華街、銅鑼(どら)湾。平日昼に日系回転ずし大手チェーン「スシロー」の店舗を訪れると、入り口前では勤め人や家族連れなどであふれていた。30分ほど待ってようやく入店し、日本同様にタッチパネルで注文を始めると、中国本土の日系回転ずし店とは様子が違うことに気づいた。「青森生サーモン」「北海道産白子天ぷら」「駿河湾(桜エビ)盛り軍艦」――。「日本産」のネタをアピールしていた。
香港は23年8月の東京電力福島第1原発処理水の海洋放出を受けて、福島など10都県の水産物輸入を禁止した。同12月の魚介類・ホタテ貝の輸入量は前年同月より2~3割減となった。だが、日本産水産物を全面禁輸して「ゼロ」となった中国本土に比べて減り幅はわずか。現地の日本企業関係者は「このうち1~2割は香港の消費低迷の影響だ。日本産食品の人気は根強い」と指摘する。
香港の日本料理店は23年時点で2000店舗程度あると見られるが、日本人だけでなく香港人経営者も多い。複数の現地食品関係者は「内陸部の長野県や新潟県産が規制されるなど、規制には合理性を欠く面は多いが、香港政府は本土の意向を踏まえつつ、バランスも取っている」と打ち明ける。
香港で広がるレストラン閉鎖の波は日本料理店も免れず、銅鑼湾にあるミシュラン一つ星を取ったこともある高級すし店は今春に閉店した。香港日本料理店協会の氷室利夫会長(61)は「今年1~3月で300軒ほど閉店した」と話す。
ただ、それは「日本愛の裏返し」との見方もある。香港では日本への旅行が「返郷下(故郷へ帰る)」と一般的に表現されるほど身近で、コロナ規制が撤廃された23年の香港からの訪日客は211万人と、総人口750万人の約3割にも当たる。24年に入っても円安の影響もあり、「2カ月に1度日本に旅行している」(20代の団体職員女性)と増え続ける。氷室さんは「富裕層が香港ではなく、日本で高級料理を味わうことになった影響が大きい」と指摘する。
実際に香港で日系チェーンの新規開店の動きは続いており、5月に香港に進出した日系ハンバーグ店は行列が絶えず、ランチは150香港ドル(約3000円)前後だが、地元のSNS(ネット交流サービス)では「入店整理券が300ドルで売買されている」と話題を集めた。大手焼き鳥チェーンや名古屋のみそ煮込みうどん店なども新規進出を検討しているという。
香港在住30年以上の氷室さんは「香港の消費低迷の底はまだ見えないが、香港人は、安全安心な日本食への信頼は高い。若い人を中心にアニメなど日本文化も大好きで、これが今後の下支えとなるだろう」と巻き返しに自信を見せた。
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