頭がよくなる魔法の薬はどこに? Sangoiri-Shutterstock
<日本語に訳すと「向知性薬」、つまり知性を高める物質のことだ。まだ研究半ばだが希望に満ちたその効果を見てみよう>
人間は古来から、知力や集中力、記憶力を高めてくれる「魔法の薬」を探し求めてきた。何千年も前から続く漢方薬もその一つだ。
現代では新たに、「ヌートロピック(向知性薬)」と呼ばれる脳サプリがある。「認知機能向上薬」や「スマートドラッグ」とも呼ばれ、グミやガム、錠剤や皮膚パッチなどの形でスーパーマーケットや薬局、ガソリンスタンドで購入できる。医師の処方箋も必要ない。
だがヌートロピックには本当に脳のはたらきを向上させる効果はあるのか。副作用はないのだろうか。これまでの研究を振り返ってみよう。
ヌートロピックとその作用
「ヌートロピック」という言葉は1970年代前半、ルーマニアの心理学者であり化学者のコルネリウ・E・ジュルジアが、記憶力や学習能力を高める可能性のある化合物をあらわすために作った言葉だ。ギリシャ語の「ヌース(考える)」と「トロペイン(導く)」が語源となっている。
ヌートロピックは神経細胞間の信号伝達を改善し、神経細胞の健康を維持してエネルギー生成を助けることで脳に作用する可能性がある。一部のヌートロピックは抗酸化物質を含み、脳内に有害物質(フリーラジカル)が蓄積して引き起こされる神経細胞のダメージを軽減させる効果が期待できる。
だが安全性と効果についてはどうなのだろうか。最も広く使用されている4つのヌートロピックについて検証してみよう。
1.カフェイン
意外に思う人もいるだろうが、カフェインもヌートロピックだ。一日のはじまりにコーヒーを飲む人が多いのも納得だろう。カフェインは私たちの神経系を刺激してくれる。
カフェインは速やかに血液中に吸収され、人間のほぼ全ての組織に行き渡る。脳もそのひとつで、カフェインが到達すると脳は覚醒し、反応速度が速くなり、気分が高まり、活力が湧いてくるような感覚になる。
これらの効果を得るためには、一度に32~300ミリグラムのカフェインを摂取する必要がある。神経刺激効果を認識するために必要なカフェインの量は人によって異なる。
ただしカフェインを摂取しすぎると不安のような症状やパニック障害、睡眠障害や幻覚症状、胃腸障害や心臓の不具合が起きる可能性がある。一日に摂取するカフェインの量は、成人で最大400ミリグラムまで、つまりエスプレッソ3杯ぐらいまでがいいとされている。
2.L-テアニン
L-テアニンはサプリメント、ガムや飲料の形で製品化されているアミノ酸で、緑茶にも多く含まれる。
L-テアニンをサプリメントとして摂取すると、脳内でα波(アルファ波)が増加する可能性がある。α波は緊張や警戒感、落ち着きと関連している。
だがL-テアニンが認知機能にどのような効果をもたらすのかは、まだはっきり分かっていない。L-テアニンを1回摂取した場合と一日1回の接種を数週間続けた場合の比較など、さまざまなグループを対象としたさまざまな研究が行われているが、一貫性のある結果は示されていない。
それでも一つの研究では、L-テアニンとカフェインを一緒にサプリメントとして摂取した場合、認知機能と注意力が向上した。若い成人がL-テアニン97ミリグラムとカフェイン40ミリグラムを同時に摂取した場合、タスクの切り替えが正確になり、注意力も高まった。
またこれと同じ量のL-テアニンとカフェインを摂取した別の研究では、注意力が改善するなど、複数の認知機能の向上がみられた。
L-テアニンは副作用は少ないが、長期にわたって使用した場合の効果や安全性を示す試験はまだ十分に行われていない。最適な摂取量を検証するための大規模かつ長期にわたる研究も必要だ。
3.アシュワガンダ
アシュワガンダはインドの伝統医療アーユルヴェーダで記憶力と認知機能の向上のためによく使用されている植物エキスだ。
ある研究では、健康な男性が毎日225~400ミリグラムのアシュワガンダを30日間にわたって摂取した場合に認知機能の改善がみられた。認知の柔軟性(タスクの切り替え能力)、視覚的記憶(画像を思い出す能力)、反応時間(刺激に対する反応速度)や実行機能(規則や分類の認識と迅速な意思決定の管理)にかなりの改善がみられたという。
軽度認知障害がある年配者にも同様の効果がみられる。だがアシュワガンダのサプリメントを使用したこれまでの研究は比較的規模が小さく、期間も短いため、研究結果については慎重に受け止めることが必要だ。
4.クレアチン
クレアチンは身体がエネルギーを生成する過程に関係している有機化合物で、スポーツサプリメントとして使用されているが、認知機能にも効果がある。
入手可能な証拠を検証した研究では、66~76歳の健康な成人がクレアチンのサプリメントを摂取すると短期記憶が改善された。
クレアチンのサプリメントを長期にわたって摂取した場合にも、効果がある可能性がある。別の研究では、新型コロナウイルスへの感染後に疲労感に悩まされている人々が一日4グラムのクレアチンを6カ月にわたって摂取し続けたところ、集中力が改善し疲労感が減少したという結果が示された。クレアチンは脳の炎症や酸化ストレスを軽減し、認知機能を改善し、疲労感を軽減させる可能性がある。
クレアチンサプリメントの副作用は研究ではほとんど報告されていないが、体重増加や胃腸の不調、肝臓や腎臓への影響などの症状が出る場合もある。
まとめ
カフェインとクレアチンに脳のはたらきを向上させる効果があることについては、十分な証拠がある。だがそのほかの多くのヌートロピックの有効性や最適な摂取量、安全性については、まだ結論が出ていない。
より多くの証拠が得られるまでは、ヌートロピックを摂取する前にかかりつけの医師など医療の専門家に相談することをお勧めする。
それでも、毎日コーヒーを飲むぐらいは大した害にはならないはずだ。一部の人にとってコーヒーは魔法の薬なのだから。
Nenad Naumovski, Professor in Food Science and Human Nutrition, University of Canberra; Amanda Bulman, PhD candidate studying the effects of nutrients on sleep, University of Canberra, and Andrew McKune, Professor, Exercise Science, University of Canberra
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