ベルギーを訪問したウクライナのゼレンスキー大統領=ブリュッセルで5月28日、ロイター

 ロシア軍による5月中旬からのウクライナ東部ハリコフ州への新たな攻勢を受けて、欧米諸国では、ウクライナへ供与した兵器の使用制限の是非が議論となっている。これまでは供与兵器によるロシア領への攻撃を認めてこなかったが、容認の流れが強まっている。戦況の変化やプーチン露政権の反応が注目される。

 ハリコフ州では、今回の攻勢に先立ち、露軍からの激しい砲撃やミサイル攻撃にさらされた国境付近の防衛が手薄となっていた。ロシア領内にある露軍の拠点を欧米製の長射程兵器で攻撃できていれば、防御の弱体化を防げたとの指摘もある。

 ウクライナのゼレンスキー大統領は、欧米から供与された兵器による越境攻撃の許可を繰り返し求めてきた。しかし、欧米側は、核大国ロシアとの緊張が高まることを恐れて認めてこなかった。

記者会見に臨むフランスのマクロン大統領(左)とドイツのショルツ首相=ベルリン近郊で5月28日、ロイター

 こうした中、フランスのマクロン大統領は5月28日、訪問先のベルリンでドイツのショルツ首相と共同で記者会見し、露軍がミサイル発射に使う軍事拠点を無力化するためなら供与した兵器の越境使用を「許可すべきだ」と主張した。

 一方のショルツ氏は、その場ではマクロン氏の言葉を明確に支持しなかった。だが、独政府の報道官は同31日に声明を発表し、ハリコフ州の防衛のため「国際法上の義務に一致する形で、ドイツから供与された武器を使うことができる」と明言した。

ウクライナにおけるロシア側占領地域

 最大の支援国である米国の慎重姿勢も変わりつつある。カービー米大統領補佐官は同28日、ロシア領への使用は認めないとする立場に「変わりはない」と表明。しかし、米ニュースサイト「ポリティコ」は同30日、バイデン米政権がウクライナに対し、米国供与の兵器による露領内への限定的な攻撃を水面下で認めていたと報じた。容認する範囲はハリコフ州周辺という。

 北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルク事務総長は、供与兵器の越境使用を認めるべきだとの立場だ。同30日には「考える時がきた」と述べるなど、NATO加盟国に検討を促している。【ベルリン五十嵐朋子】

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