ロシアの民間軍事会社「ワグネル」の創設者エフゲニー・プリゴジン氏=露南部ロストフナドヌーで2023年6月24日、AP

 ウクライナでの「特別軍事作戦」を続けるロシアでは、受刑者らで構成する部隊「ストームZ」が戦場へ送られ、激戦を強いられている模様だ。その実態はいかなるものなのか。

 ロシアで受刑者の前線投入を最初に始めたのは、政商のプリゴジン氏が率いた民間軍事会社「ワグネル」だ。水面下で国の全面支援を受けていたワグネルは、作戦が始まった2022年2月から戦闘に参加していたとみられる。半年ほどが過ぎた同7月、受刑者に対するワグネルの戦闘員募集を露独立系メディアが報じた。さらに、同9月にはプリゴジン氏自らが刑務所で戦闘員を募る様子の動画も流出した。

数万人に膨らんだ受刑者戦闘員

ロシアの民間軍事会社ワグネルが戦闘員に授与したメダル。右はシリアでの過激派組織「イスラム国」に対する勝利を記念したものという=フランス南部で2023年1月20日、真野森作撮影

 報道によると、ワグネルの戦闘員になった受刑者は6カ月間を戦って生き延びれば、残る刑期を免除されて釈放されると約束された。プーチン政権とプリゴジン氏の間で受刑者の使用を巡る合意があったとの見方もある。

 その後、ワグネルは23年2月に募集を停止したが、受刑者出身の戦闘員は数万人規模に膨らんだ模様だ。プリゴジン氏は同5月、ウクライナ東部ドネツク州の激戦地バフムトでワグネル部隊の約2万人が戦死し、受刑者出身の戦闘員5万人のうち1万人が死亡したと述べている。

 ただ、プリゴジン氏は、バフムトなどを巡る軍と国防省の対応に不満を強め、同6月にワグネル部隊を率いて反乱。結果、ワグネルは軍に吸収される形で解体されていき、プリゴジン氏ら幹部は2カ月後に自家用ジェット機の墜落で不慮の死を遂げた。

国防省が管轄する「ストームZ」

ロシアのプーチン大統領=モスクワで5月23日、AP

 ワグネルと入れ替わる形で、受刑者の戦力利用を強化したのは国防省だった。英BBC露語版は、国防省が受刑者の積極的な募集を始めたのは23年1月ごろだったと報じている。露メディア「RTVI」の今年4月の報道によると、プリゴジン氏が実施していた募集が23年2月には国防省の管轄に移され、受刑者らで構成する戦闘部隊は「ストームZ」(露語ではシュトルムZ)などの名称がつけられた。「シュトルム」は嵐の意味だ。「Z」はロシアで特別軍事作戦を象徴するほか、露語で「受刑者」を意味する単語の頭文字でもある。

 米政府系「ラジオ自由」傘下のメディア「セーベル・リアリイ」は、国防省の募集に応じた元受刑者の証言を通じて、部隊に加わった場合の待遇を伝えた。それによると、受刑者には恩赦に加えて、月額20万5000ルーブル(約35万円)の報酬が与えられる。程度は不明だが負傷の際には300万ルーブルの手当、死亡時には親族へ500万ルーブルの死亡手当が支払われる約束だという。ただ、実際には月額3万5000ルーブル以下しか支払われなかったとの別の証言もある。

動員回避のため受刑者活用か

 国防省の募集では、殺人など重い罪を犯した受刑者の戦闘参加も認めている模様だ。また、英BBCによると、一般の軍部隊で服務違反などを起こした兵士に対する罰として、ストームZへ転属させる例もあるという。こうした複雑さもあって、受刑者部隊の隊員総数はベールに包まれている。

「Z」のマークをはり付けたリュックサックを背負う男性。街中で「Z」の文字を見かけることは少ない=モスクワで3月3日、山衛守剛撮影

 厚遇の約束とは裏腹に、受刑者部隊では十分な装備を与えられないままに捨て駒のように激戦地へ投入されることもあるようだ。RTVIに証言した元受刑者の戦闘員は、一緒に戦った仲間のうち「生き残ったのは40~50%」と過酷な現実を明かした。

 さらに、今年1月の英BBC露語版の報道によると、当初は、受刑者は6カ月の戦闘任務を終えると釈放されていたが、ウクライナとの戦闘が終結するまで除隊できないよう規則が変更されたという。国民から不人気な動員を回避するなどの目的で、受刑者を最大限活用する狙いがあるとみられる。【モスクワ山衛守剛】

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