(右から)岸田文雄首相、中国の李強首相、韓国の尹錫悦大統領=AP

 日中韓3カ国は27日開いた首脳会談で、2019年から中断していた「日中韓自由貿易協定(FTA)」の交渉再開で合意した。電気自動車(EV)などを巡る中国の過剰生産に対し世界的な批判が高まる中、日本は交渉を通じ、中国の産業補助金や国有企業の優遇政策の是正を求めたい考えだ。

 日中韓FTAは13年から正式に交渉を開始した。だが、農産物や工業製品の関税自由化や、電子商取引のルール作りなどを巡って難航。3カ国の関係悪化もあり、19年11月を最後に交渉が途絶えていた。22年には、日中韓や東南アジア諸国連合(ASEAN)などが参加する地域的な包括的経済連携(RCEP)が発効。域内での一定の関税引き下げが実現したこともあり、日中韓FTAの機運は盛り上がらない状況が続いていた。

 今回の交渉再開は、中国側が求めていたとみられる。李強首相は3首脳による27日の共同記者会見で唯一、具体的に言及して「地域の産業チェーン、サプライチェーンの協力を進める」と意義を強調した。中国は長期化する不動産不況などの影響で景気回復が力強さを欠く。また、米中の関係悪化で米欧中心に経済面でも「脱中国化」を探る動きが広がっている。日中韓FTAで3カ国間の貿易を加速し経済を下支えしたいほか、半導体分野などに強みを持つ日韓を中国側に引き留めたい思惑もありそうだ。

 再開される日中韓FTA交渉では、RCEPに含まれていない分野の議論が焦点となる。関税自由化では自動車やその部品の関税撤廃を目指すことになるが、注目されるのは産業補助金や国有企業の優遇問題だ。米欧は、中国政府による多額の補助金が中国製EVや太陽光パネルなどの過剰生産と過度な値下がりを招き、各国の産業に打撃を与えると批判。25日に閉幕した日本を含む主要7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議でも、世界経済に悪影響を与えるとの懸念を共有した。

 習近平国家主席は国有企業重視の姿勢を依然崩していない。「外資誘致」をアピールしながらも、在中の日系企業などが依然不利な扱いを受けるケースも残っている。日本政府は「RCEPのルールをベースによりハイレベルな規律を目指す」(経済産業省担当者)方針で、FTA交渉では中国の補助金政策や国有企業の優遇を改めるよう求めていく。

 また、中国は東京電力福島第1原発処理水の海洋放出を受け、日本産水産物の輸入を禁止している。日本は即時撤廃を求めており、現在、日中の専門家間の対話などを進めているほか、外相が議長を務める日中ハイレベル経済対話を再開する方針だが、FTA交渉でも取り上げられる可能性がある。【小倉祥徳(北京)、高田奈実】

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