海上軍事演習のニュースを伝える中国中央電視台のテレビ画面(5月25日) CCTV/YOUTUBE
<台湾の新総統が就任した直後、2日間の軍事演習を実施した中国軍。しかし、軍事的な動きを見ているだけでは中国側の意図は分からない>
台湾の頼清徳(ライ・チントー)総統が5月20日に就任した直後、中国は予告なしに台湾周辺で2日間の軍事演習を開始。同時に主要SNSで世論誘導のための組織的な工作を展開している。
中国当局は、この挑発的作戦を台湾の「分離主義的行動」に対する「懲罰」と主張。軍事衝突手前のぎりぎりのラインで台湾側の主権、支配権、法執行権に揺さぶりをかけた。
中国当局の偽情報・世論工作は、いわゆる「ハイブリッド戦」戦略の一部だ。法的・認知的闘争に加え、「グレーゾーン(武力行使には至らない威嚇)」戦術を組み入れている。狙いは台湾海峡の現状に挑戦し、容認できない行動の定義を書き換えることだ。
中国軍の東部戦区司令部は、頼の就任演説を「台湾独立」勢力の「分離主義的行動」と呼び、軍事演習はそれに対する「重大な警告」と「効果的な懲罰」と主張した。
中国当局は国営または政府系関連機関のアカウントを使い、微信、新浪微博、TikTok、フェイスブック、X(旧ツイッター)といった中国と欧米の両方のSNSでこの主張を拡散させた。
例えば5月22日、東部戦区司令部は「台湾独立を狙う剣」と題する動画を微博に公開。中国軍の軍事力を自画自賛し、自分たちの武器を「海を越える殺戮の道具」と表現した。
「今日海峡」「台海時刻」という2つのアカウントは、微博より台湾人ユーザーが多いフェイスブックとTikTokに同じ動画を投稿。前者は福建海峡テレビのフェイスブックページ、後者は福建省政府直轄の福建省ラジオ・テレビ局が管理するTikTokアカウントだ。
注目すべきは、どちらのアカウントにも政府系機関であることを示す情報がない点だ。そのため、まるで独立系メディアであるかのような錯覚を与え、視聴者をミスリードする恐れがある。
軍事演習の動画の大半は微博や微信といった中国のSNSで最初に公開されたが、すぐに欧米系のSNSにも動画が拡散された。おそらく中国の狙いは、台湾人に恐怖と不安を与え、新政権への支持を低下させることだ。
このように中国は台湾に対し、世論工作、軍事行動、グレーゾーン戦術、法的・認知的闘争を組み合わせた「ハイブリッド戦」戦略を展開している。各戦術は複数の領域で統合的に進められ、影響を最大化すべく相互に補強し合う。既存の国際規範のグレーゾーンを悪用するこうした戦術の統合は、欧米先進国などの民主主義陣営にとって大きな安全保障上の脅威だ。
前回の台湾海峡危機(1995~96年)当時に比べ、中国の国力が強大化したことは間違いない。ただし、その代償もある。例えば、世界経済のサプライチェーンや金融市場における相互依存の高まり。それが中国の弱みであり、抑止は可能だ。ただし、脅威の特質に合わせた抑止力の構築が必要になる。
21世紀の戦争は宇宙、経済、サイバー空間など複数の領域にまたがって展開される。それを考えると、民主主義陣営は台湾海峡の平和と安定を確保するため、従来の安全保障の枠組みを超えたハイブリッド戦の特質に対処できる包括的な多領域型抑止戦略を確立しなければならない。
今回の軍事演習は氷山の一角だ。中国は自らの政治的・戦略的意図に合わせた危険な「新常態」を次々につくり出している。
From thediplomat.com
■中国中央電視台の英語版のYouTubeアカウントでも軍事演習の「報道」が...
CCTV Video News Agency-PLA Launches Joint Military Drills around Taiwan Island
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