日中韓首脳会談出席のため韓国に到着した中国の李強首相=ソウルで2024年5月26日、ロイター

 27日にソウルで開かれる日中韓首脳会談には、中国から李強首相が2023年3月の就任後、初めて出席する。最高指導者である習近平国家主席への権力集中によって、首相の地位低下が指摘される中、李強氏が出席する意味合いをどう見るべきなのか。

 中国の首相は国務院(中央政府)を率い、経済政策などの実務を担う立場だ。中国が定例の首脳級会合に、国家主席ではなく首相を派遣する事例としては、日中韓首脳会談のほかに、東アジア首脳会議(サミット)、中国・欧州連合(EU)首脳会議などがある。

 かつては集団指導体制の下で国家主席と首相が二人三脚の関係とされた。しかし、習指導部の発足後は、「習1強」とも呼ばれるトップダウン体制が確立し、首相の権限は事実上、縮小されて上下関係が明確になった。特に、23年の引退後に急死した李克強前首相は、習氏と政治路線が異なったこともあり、改革派指導者としての存在感を発揮することができなかった。

 では、現職の李強氏はどうか。李強氏は習氏の腹心の一人。習氏が20年前に浙江省トップだったころ、李強氏が秘書長を務めたという長年の関係だ。習氏の政治スタイルの特徴は過去に勤務した福建省や浙江省、上海市時代の部下を、中央政界に引き上げて周囲を固めたことであり、李強氏はその代表的人物と言える。

 地方でキャリアを積んだ李強氏がいきなり首相に抜てきされるのは異例であり、習氏からの信頼の厚さがうかがえる。実際、全国人民代表大会(全人代)の壇上などでは、両者が打ち解けた様子で言葉を交わす場面が見られた。前任の李克強氏の時代にはなかった光景だ。

 一方、首相の存在感そのものは李強氏の就任後に、さらに下がった。象徴的な出来事は、これまで首相の晴れ舞台だった全人代後の首相記者会見を24年から取りやめたことだ。北京の外交筋の間では「習氏の顔を立てるため、李強氏があえて目立つのを避けている」との見方がもっぱらだ。そのため、地位の低下した首相との会談の意義は乏しいとの見方もある。

 ただ、習氏に権力が集中すればするほど側近たちの間で、習氏との距離が政策決定への影響力と直結する可能性がある。「李克強氏よりも、李強氏の方が習氏との距離は格段に近い」(日本政府関係者)だけに、李強氏へのメッセージや働きかけが習氏に伝わる可能性は高まったとも言える。さらに最近、習氏本人は外遊の機会を絞る傾向にある。その意味でも李強氏と直接対話する機会を過小評価すべきでないとも言えそうだ。【北京・河津啓介】

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