総選挙の投票開始の直前に、モディ首相(中央)は本誌のインタビューに応じた PMO INDIA
<「私は常に集中している」...本誌の独占インタビューに応じたモディは、経済発展や女性の地位向上、日米豪印でつくる戦略的枠組みの「クアッド」に至るまで語った>
インドが中国を抜いて世界最大の人口大国となって1年。急速な経済成長を遂げ、外交、科学、軍事の各分野で存在感を増すインドは、世界でさらに重要性を高め、新しい超大国になろうとしている。
インドのナレンドラ・モディ首相は本誌が事前に送った質問に書面で答えた後、首都ニューデリーの首相官邸で1時間半にわたり本誌の独占インタビューに応じた。本誌側の出席者はCEOのデブ・プラガド、グローバル編集長のナンシー・クーパー、アジア地域編集ディレクターのダニッシュ・マンズール・バット。
トピックはモディのリーダーシップの下での経済発展をはじめ、インフラの拡張と環境問題との関係、中国との競争、報道の自由を制限しているとの批判、女性の地位向上など多岐にわたった。以下はその要旨。
◇ ◇ ◇■6月1日まで投票が行われている総選挙について
私たちには、公約を果たしたという素晴らしい実績がある。公約が実行されない状況に慣れていた国民にとって、これは大きな進歩だ。
国民の間には、誰かが政府プログラムの恩恵を受けたなら、同じ恩恵が自分たちにも届くという信頼感がある。インド経済が世界11位から5位にまで躍進する様子を人々は目の当たりにしてきた。この国がいま望むのは、近いうちに世界3位の経済大国になることだ。
■民主主義と報道の自由について
インドは民主主義の「母国」だ。(南部)タミルナド州のアタラマーアーには、インドの民主主義的価値観を刻んだ1100~1200年前の銘板がある。わが国は世界最大の民主主義国家で、今回の総選挙では9億7000万人以上が投票する。
インドのような民主主義が前進できるのは、監視機能が作用しているからこそだ。この点でインドのメディアは重要な役割を果たしている。
■インフラ拡大と環境問題について
過去10年におけるインドの変革は、インフラの急速な整備によって加速された。国道網は2014年の9万1287キロから昨年は14万6145キロへと約60%延びた。空港は14年の74カ所から現在は150カ所以上と、2倍以上に増えている。
港湾の能力も「サガルマラ計画」により強化され、運営効率が改善した。市民の快適な移動のためにハイテクを駆使した「バンデ・バーラト急行」の運行をはじめ、手頃な価格で庶民の航空機による移動を促進する「ウダン計画」もスタートさせた。
インフラを整備することと気候変動への取り組みを強めることの間に矛盾はない。インドはインフラを強化しながら気候変動緩和の最前線に立つ方法について、信頼できるモデルを提供している。
ソーラーシステムによって1000万世帯に明かりをともす、太陽光発電ポンプで農家を支援する、エネルギー効率の高い電球を4億個配布するなどの施策だ。
14年以降は、再生可能エネルギーへの投資を大幅に拡大した。太陽光発電の容量は14年には2820メガワットだったが、現在は7万2000メガワットを超えている。再生可能エネルギーの発電容量を30年までに500ギガワットに引き上げ、2015年のパリ協定の目標達成に向けても着々と進んでいる。
さらに70億ドル近くをかけて100都市に1万台の電動バスを導入することで、環境に配慮した都市モビリティーに大きな弾みをつけ、騒音と大気汚染を緩和する。
インドの1人当たりの温室効果ガス排出量は今も世界平均の半分以下だが、発表したとおり70年までに排出量の「ネットゼロ(温室効果ガスの純排出ゼロ)」を達成する。
■中国との競争について
サプライチェーンの多様化を目指す企業がインドに注目するのは、当然のことだ。私たちは大胆な経済改革に取り組んできた。物品サービス税の改革、法人税の引き下げ、破産法の制定、労働法の改革、外国直接投資の基準の緩和などだ。
その結果、インドでは大幅にビジネスがやりやすくなった。規制の枠組みや税制、インフラをグローバルスタンダードと同等にしようと努力している。
■電子決済システム「UPI」の発展について
UPIの成功から3つの重要な教訓を引き出せると思う。第1にテクノロジーはオープンで相互運用が可能であり、拡張性があって安全でなくてはならないこと。第2に、テクノロジーの民主化が必要であること。第3に、人々のテクノロジーへの適応力を信頼すべきだということだ。
UPIは、インドの誇るイノベーション力が生んだ素晴らしい例だ。金銭的なものから地理的なものまで、無数の障壁を超えたツールだと思う。
■経済成長を持続し、配分するという課題について
現在、インドの年齢中央値は28歳と若い。この「人口の配当」を活用し、47年までにインドに先進国の仲間入りをさせると約束する。
インドの新興企業の驚異的な成長は、はっきり目に見える。14年に100社程度だったスタートアップが、今は12万5000社を超える。「スキリング」「リスキリング」「アップスキリング」を繰り返し、一方で雇用を創出していくことで、わが国の若者は今後数十年をリードできる。
インドは過去10年間で世界最大の貧困撲滅運動を展開し、2億5000万人を貧困から救った。この数字以上の人口を抱える国は世界に4つしかない。最近のある研究によれば、インドは極貧を消滅させている。
経済成長の結果、前例のない福祉制度を実施することができた。これらの制度により、貧困層に4000万世帯の住宅、1億世帯分以上のクリーンエネルギー、約1億1000万世帯分の清潔な水とトイレ設備をもたらした。5億人が無償で医療を受けられるようになり、最後に残る1万8000の村落に電気が通った。
■差別されているという宗教的少数派の不満について
インドで少数派が差別されているなどという話は、もう当の少数派でさえ信じない。インドではイスラム教徒、キリスト教徒、仏教徒、シーク教徒、ジャイナ教徒、あるいはパールシー(インドのゾロアスター教徒)のような超少数派でさえ幸福に暮らし繁栄している。
枠組みとイニシアチブについて、私の政権はインドで初めて独自の大々的なキャンペーンを考案した。住宅、トイレ、水道などの設備や、料理用燃料、無担保融資、医療保険などが、コミュニティーや宗教に関係なく国民に行き渡っている。
■女性の地位について
女性はインドの発展の最前線にいる。私たちは「女性の発展」ではなく、「女性主導の発展」と言うように改めた。
議会では、下院と州議会の議席の3分の1を女性に割り当てる画期的な法案を可決した。今回の総選挙では女性の登録有権者が15%増えた。
妊産婦死亡率は14年の出生10万例当たり130から20年は97に低下し、女性の栄養状態も大幅に改善した。各種の出産手当法は世界でも先進的で、26週の完全有給の出産休暇を与え、従業員数50人以上の事業所に託児所の設置を義務付けている。
女性は軍隊を含む全セクターに進出している。政府は貧しい女性のために2億8500万の銀行口座を開設し、起業を志す3億人の女性に無担保融資を実施してきた。農村部の大勢の女性も画期的なプロジェクトの恩恵を受けている。
農業用ドローンの操縦法を学ぶ「ナモ・ドローン・ディディ」や、3000万人の女性が自助グループに参加して年間1世帯当たり最低10万ルピー(約18万5000円)の収入を得られるようにする「ラクパティ・ディディ」などだ。インドの航空パイロットに占める女性の比率は約15%と世界最高だ。
これらの先進的な対策により、女性の就労率は17年の23%から、昨年はコロナ禍だったが37%に上昇した。
トイレや生理用ナプキンの話をしたインド首相は私が初めてだ。昨年の独立記念日の演説で私は女性と女性の選択を尊重していると言った。インドでも世界でも女性の安全確保のためにやるべきことはまだある。
■中国と、日米豪印でつくる戦略的枠組みの「クアッド」について
アメリカ、オーストラリア、日本、インド、中国は多くの枠組みに加盟している。枠組みも組み合わせも多種多様で、クアッドはどこか敵国を想定したものではない。
上海協力機構(SCO)やBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)など多くの国際的枠組みと同様、志を同じくする国が共通の建設的課題に取り組んでいる。
インド太平洋地域はグローバルな貿易やイノベーションや成長を推進する。この地域の安全保障は地域だけでなく世界にとって重要だ。
温暖化対策、災害管理、戦略的技術、信頼できるサプライチェーン、健康安全保障、海上安全保障、テロ対策といった分野における共通の取り組みとインド太平洋地域における開発プロジェクトの実現によって、クアッドの4カ国はインド太平洋が自由で開かれたインクルーシブな地域であることを明示している。
■ジャム・カシミール州の特別自治権廃止に対する批判について
実際に現地を訪れて、劇的で前向きな変化が起きているのをその目で確かめるといい。私は今年3月にジャム・カシミールを訪れたばかりだ。住民は自分たちの暮らしに初めて新たな希望を抱いている。
住民は平和の配当を手にしている。昨年は2100万人余りの観光客がこの地域を訪れた。テロ事件も激減し、抗議デモや投石は過去のものとなった。
(ジャム・カシミール州に自治権を与えた)憲法370条の廃止後、F4レースやミスワールド、G20関連の会合など重要な国際イベントが相次いで開催され、デジタルエコノミーやイノベーションやスタートアップ、スマートソリューションが急速に広まっている。
■モディの肝煎りで建設されたヒンドゥー教寺院の重要性について
(ヒンドゥー教の)ラーマ神の名はインド国民の意識に刻み込まれている。彼の生涯がインド文明における思想と価値観の輪郭となり、彼の名は聖なるインドの隅々にまで響き渡っている。
私は特別な儀式が行われた11日間にラーマ神の足跡をたどる聖地巡りをし、インドの国民一人一人が心の中でラーマ神をあがめているのだと気付いた。ラーマ神の生誕地への帰還は国民にとって歴史的な団結の瞬間だった。
■リーダーシップに関する認識について
聴く力はリーダーの重要な資質だ。私は人の話を聴く天賦の才があり、自分でも磨きをかけた。私は常に集中している。突然入ってくる電話やメッセージで気が散ったりしない。
リーダーには下からのフィードバックが重要だと思う。庶民とつながり、率直な意見を聴く力が欠かせない。そうしたパイプを複数持ち、偏見や好みに左右されないようにするべきだ。私はインドの約8割の地区で最低1晩は過ごしたから、ほとんどの地区で直接フィードバックを得るのに役立つパイプがある。
例えばグジャラート州首相時代、午前3時頃にカルジャンの住民から私に電話がかかってきた。大きな爆発があったという通報だった。州政府全体がすぐに対応。列車事故と判明し、日の出前に事態を収拾できた。
私の元には大量の手紙が届く。多くの手紙に目を通し、国民の気持ちをこの目で見る。これらの手紙をヒントに思い付いたのが(自らの考えや政策を国民に直接訴えるラジオ番組)『マン・キ・バート』だ。放送回数は既に110回を数え、私は番組を通して社会から建設的な反応を得て、それを増強している。
「Newsweek」本誌
"I feel negativity has a low shelf life.... On the other hand, positivity is perennial."
— Newsweek (@Newsweek) April 10, 2024
EXCLUSIVE INTERVIEW: How Narendra Modi is changing India and the world@NarendraModi | @PMOIndia | @TellDM | @NancyCooperNYC
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