5月14日ソウル日本大使館前で「日本は、歴史の歪曲、企業の略奪をやめよ」と抗議する人々...... Chris Jung/NurPhoto

<2015年の日韓慰安婦合意にもとづいて日本政府が10億円を拠出して設立後、文在寅前政権が解散させた「和解・癒やし財団」の残金が5年半たっても宙に浮いている......>

2015年の日韓慰安婦合意にもとづいて日本政府が10億円を拠出し、韓国政府が解散させた「和解・癒やし財団」の残余財産が処理されることなく問題になっている。

文在寅前政権が財団を解散させたとき、所管官庁の女性家族部は残金56億ウォンの処理には1年かからないと述べたが、5年半経過したいまだに完了することはなく、預金利息がついて59億4000万ウォンに膨れ上がっている。「具体的な処理については日韓の協議が必要」で「外交部と協議を続けている」というが、協議等の動きはなく職務放棄という声が上がっている。

18年、文在寅政権が「和解・癒し財団」を解散

2015年12月28日、当時の岸田文雄外務大臣と尹炳世(ユン・ビョンセ)韓国外交部長官が外相会談を行って、慰安婦問題を最終的かつ不可逆的に解決することで合意した。

日本政府は内閣総理大臣が心からのお詫びを表明し、韓国政府が設立する支援財団に10億円を拠出する。韓国政府は在韓日本大使館前の慰安婦像が適切に解決されるよう努力する。両政府は以後、国際社会で慰安婦問題に関する非難や批判を控えるという内容だ。

2016年7月28日、韓国政府が合意にもとづいて「和解・癒やし財団」を設立すると日本政府は10億円を送金した。韓国政府は同9月1日、着金を確認したと発表した。財団は存命だった元慰安婦46人に1人あたり約1億ウォン、遺族199人に約2000万ウォンずつ支給する方針を決めたが、慰安婦関連団体の正義記憶連帯(正義連)と元慰安婦が入所するナヌムの家などが妨害。元慰安婦34人と遺族58人に合わせて44億ウォンを支給した。

18年11月、文在寅政権が和解・癒し財団を解散させると述べ、19年7月、解散手続きを完了させた。慰安婦合意の見直しを公約に掲げた文在寅前大統領は10億円を日本に返すと述べたが、日本政府が見直しを拒絶し、さらには送金しても受け取らないと表明、解散に強く抗議した。

日本政府が10億円を拠出したとき、日本はもとより韓国内でもいずれ韓国政府が合意を破棄するだろうという声が出た。韓国は政権が変わると前政権の政策や日本などと交わした約束事を反故にするケースが少なくない。1998年に小渕恵三首相と金大中大統領が交わした日韓共同宣言は事実上、無効化されている。

米オバマ大統領が日韓関係改善に尽力

日本と韓国が慰安婦問題で合意した15年当時、日韓両国の軋轢は世界中に知られていた。険悪な関係を懸念した米オバマ大統領が14年3月、オランダ・ハーグの米国大使公邸に安倍晋三首相と朴槿恵大統領を招待して日米韓首脳会談を主催したが関係修復には至らなかった。オバマ大統領は15年10月にホワイトハウスで朴槿恵大統領と会談し、また11月に出張先のマレーシアで安倍晋三元首相と会談を行った際にも関係改善を促した。米大統領の意向を受けた両首脳は日中韓サミットを開催したソウルで二国間首脳会談を行い、未来志向の関係を築いていくことで合意した。

韓国がオバマ大統領の尽力の所産ともいえる合意を一方的に破棄すれば、米国はじめ各国が「韓国は約束を守らない国」だと認識することになる。

日本が拠出した10億円は直接的には元慰安婦への見舞金だが、韓国の国際的な信用を担保する意味合いも大きい。仮に日本が返還金を受け取れば約束を守らない国を容認することになりかねない。

日本は合意破棄をある程度想定できたが、韓国は米国に加えて北朝鮮や中国からの信用も失った。北朝鮮は以降、親北政権の交渉に応じることはなく、20年には南北事務所を爆破した。中国の習近平主席も文在寅大統領の訪韓要請に応えることはなかった。

慰安婦合意を批判した人たちのその後は......

現在、慰安婦合意を批判した人たちは見る影もない。支給を妨害した「ナヌムの家」の当時の所長は不正が明るみに出て実刑が確定した。正義連の尹美香前代表も同様だ。20年の総選挙で国会入りを果たしたが、横領などの容疑で有罪判決を受けている。24年4月の総選挙に出馬しなかったが、話題になることはなかった。仮に出馬して再選できても任期中に上告審で有罪が確定すれば失職は免れない。

文在寅前大統領も表に出ることはない。23年5月に封切られたドキュメンタリー映画「文在寅です」の観客動員数は10万人。公開10日で100万人を突破した映画「盧武鉉です」とは対照的で、タマネギ男こと曺国を描いたドキュメンタリー映画「君がチョ・グク」の30万人にも及ばない。

「和解・癒やし財団」の残金処理は日本政府の承認が必須である。韓国は10億円を返還する案や別の関連事業に使う案などを提示したが、日本は返金を再度拒絶し、また本来の目的以外は認められないと回答した。

市民団体や学界は返還や慰安婦支援事業への投入など早急な処理を求め、ある法学教授は財団を元に戻して事業を継続することが日本への礼儀だと主張する。官民学のいずれを見ても拠出の前提にあった慰安婦問題の解決がおざなりになっている。

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