噴煙の上がるイラン大使館 FIRAS MAKDESIーREUTERS
<シリアの大使館攻撃でイラン革命防衛隊幹部が死亡。イスラエルは沈黙を守るが、地域紛争拡大の懸念も>
エイプリルフールではなかった。4月1日、シリアの首都ダマスカスにあるイラン大使館にミサイル攻撃があり、多くの死傷者が出た。これを受けてイラン政府高官はイスラエルに対し、こうなったら積極的な報復に出ざるを得ないと警告した。
イランの国連大使ザーラ・エルシャディが翌2日に発表し、国連安全保障理事会(安保理)の議長国マルタのバネッサ・フレイザー大使に提出した声明によれば、イラン人職員7人(革命防衛隊の司令官2人を含む)を殺害した今回の行為はイスラエルによる「恐ろしい犯罪であり卑劣なテロ行為」だ。
イスラエル軍は攻撃への関与を肯定も否定もしていない。だがエルシャディは、国際法に違反するのみならずシリアの主権を侵害する行為だと強く非難。「国際社会の共有する原則、すなわち一国の外交使節団の不可侵性を踏みにじるもの」と断じた。
イラン政府は攻撃当日にも国連へ書簡を提出していたが、エルシャディは改めて安保理に対し、イスラエルを強く非難するよう求めた。
パレスチナ自治区ガザを実効支配するハマスとイスラエルの衝突に由来する緊張が中東各地に広がるなか、「わが国は最大限に自制してきたが、忍耐にも限度がある」と、エルシャディは論じ、今回の大使館攻撃に伴う「責任はあの占領政権(イスラエル)に取らせる。イランは国際法と国連憲章の下で断固とした対応を取る正当かつ固有の権利を有する」と強調した。
非難の焦点は不可侵権
大使館攻撃を非難しているのはイランやシリアだけではない。中東各国はもちろん、中国やロシアなども批判している。エルシャディは、国連安保理で議論すべきだというイラン政府の呼びかけに同調した中国政府とロシア政府に謝意を表明した。
2日には国連のシリア担当特使ガイル・ペデルセンも正式に非難声明を出し、「外交使節団の不可侵権は国際法の下で例外なく尊重されるべきだ」と指摘している。
「域内で暴力と危険が増大している時期だからこそ、誰もが緊張を激化させることなく、国際法の定める義務を果たすべきだ」と、ペデルセンの声明にはある。「全ての関係者が最大の抑制を保ち、紛争のさらなる拡大を回避することが必要だ。少しでも計算違いがあれば紛争が拡大し、シリアおよび中東地域に深刻な結果をもたらす恐れがある」
イランのエルシャディも、大使館攻撃は「域内の緊張を激化させ、他国をも巻き込む紛争拡大の引き金となりかねない」と主張している。
一方でアメリカは、中東全域での紛争につながりかねない行為には賛成できないと繰り返し表明してきた。アントニー・ブリンケン米国務長官はこの点を2日の声明でも確認したが、イスラエルを名指しすることは避けた。
「紛争の拡大を防ぐために各国と緊密に協議している。レバノンでもイラクでもシリアでも、紅海方面でもイエメンでもだ」。ブリンケンは訪問先のパリでそう語ったが、今回のイラン大使館攻撃に関しては「事実関係を確認中」とするにとどめた。
その一方、ブリンケンはレバノン情勢を念頭に、旧宗主国フランスとの協議を続けているとし、レバノンでの新たな紛争は「誰も、イスラエルも(シーア派民兵組織の)ヒズボラも、レバノンもイランも望んでいない」と強調した。
「抵抗の枢軸」を公然支持
ジョン・カービー米大統領補佐官(広報担当)も「ダマスカスで起きたことについて現時点で話せることはない」とし、アメリカの関与を否定するにとどめている。
レバノンやイラク、シリア、イエメンで活動するシーア派民兵組織、いわゆる「抵抗の枢軸」をイラン政府は公然と支持しているが、指揮命令系統の存在は否定している。
だがイスラエル軍は長年にわたり、イランとの関係が疑われるシリア国内の標的に対する非公然の空爆を繰り返しており、シーア派民兵組織はイランの事実上の前線基地だと非難してきた。
イスラエル政府は原則として、こうした空爆への関与を肯定も否定もしない立場だ。ただし一部の政治家や軍事筋が個々の攻撃への関与を認めることはある。
今回のイラン大使館攻撃に関して、イスラエル側は沈黙を守っているが、同じ4月1日にガザで民間支援団体ワールド・セントラル・キッチンのスタッフ7人の命を奪ったミサイル攻撃については率直に関与を認めている。
イスラエル軍のダニエル・ハガリ報道官は民間人の被害に「心からの悲しみ」を表明し、どのような状況だったかを調査すると約束した。
ちなみにイランの国連大使エルシャディも2日の声明でこの事件に言及し、イスラエルは故意に民間人を標的にしていると訴えた。もちろんイスラエル軍はこうした主張を否定し、ハマスこそ非戦闘員を標的にしていると主張するが、当然のことながらハマス側は否定している。
エルシャディはまた、アメリカとその同盟諸国が中東危機の責任をイランに転嫁しようとする一方、イスラエルの身勝手な行動を野放しにしていると糾弾し、アメリカこそが紛争の拡大を画策していると指摘して、こう続けた。
「アメリカはイスラエルの現政権が犯した全ての犯罪に責任がある。ガザでの野蛮な大量虐殺行為は、アメリカの明確な同意と政治的・財政的・軍事的な支援、そしてパートナーシップなしには起こり得なかった」
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