街頭でパレスチナ支持を訴える人たち=トルコ・イスタンブールで3日、ロイター

 イスラエルとパレスチナ自治区ガザ地区を支配するイスラム組織ハマスとの戦闘を巡り、トルコとイスラエルの関係が急速に悪化している。トルコ商務省は2日、ガザ地区の「人道的悲劇の悪化」を理由にイスラエルとの輸出入を全面的に停止する経済制裁を行うと発表した。イスラエルにとってトルコは主要輸入国の一つで、経済的な打撃は避けられそうにない。

 「イスラエルに停戦に同意させるための措置を取った。紛争や血、涙を見たくない。私たちは正しいことをした」。トルコのエルドアン大統領は3日、イスタンブールで経済界の関係者を前に強調した。

 トルコは国民の99%がイスラム教徒で、昨年10月以降、ガザ地区での死者が増えるにつれて「反イスラエル」を鮮明にしてきた。

 トルコ政府は4月9日、イスラエルに対して鉄鋼やアルミニウムなどの工業製品54品目の輸出を停止した。この時は軍事転用可能な製品などに限定していたが、今回はガザ地区での恒久的な停戦が実施されるまでは輸出入を全面的に停止する。エルドアン政権は支持層のイスラム保守派を意識しているとみられる。

 これに対して、イスラエルのカッツ外相は、エルドアン氏を念頭に「独裁者の振る舞いであり、トルコ国民と経済界の利益を無視している」と非難した。イスラエルの製造業協会もトルコを批判し、輸入依存から脱却するために地元生産を強化する必要があると訴えている。

街頭でパレスチナ支持を訴える人たち=トルコ・イスタンブールで3日、ロイター

 トルコ政府の統計によると、2023年の両国の貿易額は68億ドル(約1兆円)で、このうち約76%はトルコからの輸出だ。イスラエルにとってトルコは国別で5位の輸入国となっている。トルコに詳しいイスラエルの専門家は地元メディアで「トルコ経済にとっても影響は小さくないが、イスラエルにとってのトルコの重要性の方がはるかに大きい」と指摘する。

 イスラエルのトルコからの輸入は多岐にわたる。金属などが輸入の27%を占めるが、農産物や建築資材の他、自動車や電化製品なども含まれる。今後、イスラエルは欧州諸国から代替製品を輸入する方針だが、トルコ製品に比べると価格が高く、輸送コストの上昇も避けられない。

 特にイスラエルで使われている電化製品のほとんどはトルコで製造されたもので、英国の中東ニュース専門サイト「ミドル・イースト・アイ」は今回の措置で、電化製品の価格が35%上昇する可能性があると伝えている。

 イスラエルがさらに懸念するのは、貿易停止などの動きが他国に波及することだ。ガザでの死者は3万4000人を超え、ガザでの戦闘を続けるイスラエルは国際社会から批判を浴び続けている。1日には南米コロンビアがイスラエルとの断交を発表。断交の動きの他、トルコに続く「ボイコット」が他国にも広がることに神経をとがらせている。

 イスラエルとトルコの関係はこれまでも浮き沈みを繰り返してきた。10年にはガザへの支援物資を積んだ船がイスラエルに攻撃され、トルコ人ら10人が死亡し、関係が極度に悪化。ただ最近は深刻なインフレに陥ったトルコがイスラエルに歩み寄り、22年には互いに大使を復帰させるなど関係改善に向かう場面もあった。

 支援船の襲撃の際も、2国間の貿易は維持されてきただけに、今回の措置で両国関係の悪化は避けられそうにない。イスラエルは代替の供給元の確保や現地生産への転換を迫られるだけでなく、ガザ地区での戦闘停止を巡って経済的にも揺さぶられている。【エルサレム松岡大地】

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