難民申請者向けの施設前に立つ子供たち=アイルランド・ダブリンで4月30日、ロイター

 英国で不法移民をアフリカのルワンダへ強制移送する法律が4月に成立したことを受け、英国に隣接するアイルランドが警戒を強めている。強制移送を恐れる人々が、英国ではなくアイルランドに流入する可能性があるためだ。アイルランド政府は移民の過度な流入を阻止する法律を整備する方針で、移民の「押し付け合い」の様相を呈している。

 「わが国は、他国の移民政策の“抜け道”になることはない」。英BBC放送などによると、アイルランドのハリス首相は4月28日、記者団にこう語った。アイルランドは今後、英国から来た難民申請者を英国に送り返す法律を整備するという。これに対し、スナク英首相の報道官は同30日、「誰を受け入れるか決めるのは英政府だ」と述べ、送還された移民を受け入れる義務はないと反論した。

英国のスナク首相=ワルシャワで4月23日、ロイター

 論争の背景にあるのは英国で4月に成立した法律だ。不法入国した難民申請者をルワンダへ強制移送する内容で、法案が上下院を通過した後、4月25日にチャールズ国王の裁可を経て正式な法律となった。

 この法律が隣国に波紋を広げている。アイルランドのマッケンティー法相は4月下旬、最近の自国への難民申請者の多くは「英領北アイルランドから陸路で入国している」と述べた。英国に何らかの方法で入国した後も難民申請せず、アイルランド入国後に申請する移民が増えているとみられる。アイルランド島の北側にある英領北アイルランドと南側のアイルランドは地続きで、原則として検問はなく、自由に往来できる。

アイルランドのハリス首相=ダブリンで4月12日、ロイター

 一方、アイルランド側に向かう人々が増加傾向と報じられたことについて、スナク氏は4月27日公開の英スカイニューズのインタビューで、「(法律の)抑止力が効果を発揮している」と「成果」を強調。「英国に滞在できないと分かれば、(不法移民が)来る可能性は低くなる。だからこの法律は重要なのだ」と自賛した。

 欧州では近年、中東やアフリカなどから流入する大勢の移民が社会問題となっている。島国の英国も同様で、英仏海峡をボートで渡って英国に到着した人々は2018年以降、計約12万人に上る。年内にも実施予定の総選挙を前に、支持率が低迷する与党・保守党のスナク氏には、「移民抑制」の実績を有権者にアピールする狙いもあるとみられる。

 ただ、この法律については「人々を商品のように扱うべきでない」(国連難民高等弁務官事務所)といった批判も根強い。【ロンドン篠田航一】

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