就任式で演説するバイル新首相(右)とバルニエ前首相=パリで2024年12月13日、ロイター

 フランスのマクロン大統領は13日、中道政党「民主運動」党首のフランソワ・バイル元法相(73)を首相に指名した。極右から左派まで幅広い人脈を持つバイル氏の調整力への期待が高まるが、政局が不安定化する中での組閣や緊縮予算の実行など、課題が山積する。

 バルニエ前政権下では、緊縮型の2025年予算を巡って政党間の意見がまとまらず、国民議会(下院)で左派や極右政党の「国民連合」が共闘する形で4日、内閣不信任決議案が可決された。バイル氏は13日の就任演説で「私は現在の困難な状況を誰よりも理解している。目の前に高い山がそびえていることは分かっている」と述べた。

 マクロン氏はバルニエ氏率いる内閣が5日に総辞職して以降、各政党の代表者と面会し、首相候補を探ってきた。ルモンド紙によると、バイル氏は自らが首相に指名されなかった場合、マクロン氏の中道連合から民主運動を離脱させる考えをマクロン氏に伝え、決断を促したとされる。

 バイル氏は左派から極右まで、さまざまな政党と協力してきた経験を持つ。1993~97年にはミッテラン大統領、バラデュール首相の保革共住政権、シラク大統領、ジュペ首相の右派政権で教育相を務め、その後、02、07、12年の3回の大統領選に立候補したが、いずれも第1回投票で落選した。

 12年の決選投票では左派社会党のオランド氏を支持し、オランド氏は右派「国民運動連合」のサルコジ氏との接戦を制した。一方、17年大統領選では出馬を見送り中道のマクロン氏の支持に回り、マクロン氏の初当選に貢献した。民主運動はマクロン氏率いる中道連合の一角を形成し、バイル氏は法相に指名された。

 半面、12年の大統領選で敗れたサルコジ氏からは「裏切り者」と批判され、国民運動連合の流れをくむ中道右派「共和党」とは険悪な関係となった。だが、バルニエ政権入りした共和党と中道連合は協力関係を深めたため、影響は限定的との見方もある。

 バイル氏は政治の一極集中を嫌い、多元化を信条とする。反移民、反欧州を掲げる国民連合の指導者ルペン氏とは主張の隔たりが大きいが、12年大統領選では立候補に必要な国会議員、県議会議員、市町村長などの推薦署名集めに苦戦するルペン氏のために署名した。またバイル氏とルペン氏は、ともに少数派の政党にも議席を配分しやすい比例代表制の国民議会選への導入を主張するなど共通点があり、党派を超えた信頼関係があるとされる。

 仏下院は6~7月に実施された総選挙で、左派連合、中道連合、国民連合のいずれも過半数を獲得できず、不安定な状態が続いている。バイル新首相にとって組閣と25年予算の審議が当面の課題となる。24年の財政赤字は国内総生産(GDP)の6%に達する見通しで、欧州連合(EU)から緊縮財政を求められている。だがバルニエ政権が緊縮型予算を議会の採決を経ずに強制採択したことが、低所得者層に支持基盤を広げる左派と極右の双方から反発を招き、内閣不信任案可決の原因となった。

 左派連合を構成する社会党は13日、バイル氏の首相指名を受け、内閣に参加する意思がないことを告げ、今後、内閣不信任案を支持しない条件として、議会を無視した強制採択を実施しないことなどを挙げた。また国民連合のルペン氏はX(ツイッター)に、「前任者がやろうとしなかった、反対意見を聞き、合理的で熟慮された予算を期待する」と投稿した。

 バイル氏は緊縮財政派とされるが、対立する政党間の隔たりをどう調整し、妥協点を見いだすかが注目される。【ブリュッセル宮川裕章】

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