対米貿易の自由化がインドにもたらすメリットは大きい JAMIE MCCARTHY/GETTY IMAGES
<関税を操作するトランプの手法はインドにとっては厄介になる。トランプ一族のビジネスへの投資を餌にする戦略も?>
ドナルド・トランプがホワイトハウスに復帰したら米・インド関係が安定する、と期待したくなる気持ちは分かる。確かに米政界では、中国の経済的および地政学的影響力に対抗する手段として、インドとの関係強化が超党派で支持されている。
だが、現実はそう簡単ではない。もちろん、米印の戦略的パートナーシップは双方に利益をもたらすだろう。トランプの「アメリカを再び偉大に」政策と、インドのモディ首相の「ヒンドゥー・ナショナリズム」にはイデオロギー上の共通点も多い。
にもかかわらず、2期目のトランプ政権は両国関係に重大なリスクをもたらしかねない。原因はインドの2つの弱みにある。
第1に、インドにとっては貿易赤字削減のために関税を操作するトランプの手法は厄介だ。インドは世界最高水準の関税を維持し、巨額の対米貿易黒字を記録している(2022年は457億ドル)。
前トランプ政権で米通商代表部(USTR)代表を務め、2期目でも要職への起用が取り沙汰されるロバート・ライトハイザーは、インドを「世界最大の保護主義国家」と評しており、貿易摩擦の激化は避けられない。
インドの2つ目の弱みは中国の拡張主義だ。
トランプは中国の経済と貿易を重大な脅威と見なす一方、中国の軍事的侵略には関心が薄く、他国の紛争への介入を嫌う。そのため、通商上の譲歩を引き出せるなら、台湾や南シナ海、さらにはヒマラヤのインドとの国境地帯での中国の行動にも目をつぶる可能性がある。
イーロン・マスクら億万長者の側近も中国市場へのアクセスを守りたい思惑から、中国の拡張主義を放置するようトランプに促すかもしれない。
これらにインドはどう対処すべきか。トランプの要求に応じて関税を選択的に引き下げつつ相手の出方を慎重に待つ戦略や、トランプ一族のビジネスへの投資を餌にする戦略も選択肢の1つだ。
王道は2国間協定や自由貿易協定(FTA)だ。例えばインドの衣料品業界はFTAに守られたベトナムの競合企業や、アフリカ成長機会法(AGOG)によりアメリカ向け輸出関税が免除されるアフリカ諸国に比べて多大なハンディを負っている。
2国間FTAを結べば、労働集約型のインド製品へのアメリカの関税が引き下げられ、公平な競争環境を整えられる。
また、企業が中国以外にも製造拠点を分散させる「チャイナプラスワン」戦略の恩恵にもあずかれるだろう。トランプが提案する中国製品への追加関税により中国からの資本流出が加速すれば、外国企業は代替の投資先を探す。
前トランプ政権の中国製品への関税強化がベトナムやメキシコを利したように、インドも適切な政策を取れば、この傾向の恩恵を享受できるだろう。
さらにFTAは、低迷するインドの製造業を復活させるチャンスにもなる。トランプは米国内での製造を重視しているが、FTAがあれば国内産業がインドに奪われるという懸念を和らげられる。
市場自由化には政治的な抵抗が伴いがちだが、インドの場合はそうでもないかもしれない。アメリカからの輸入製品の大半がエネルギー関連製品か金で、自由化に反対する声の少ない分野だからだ。一方、輸出では宝石や医薬品、衣料品、機械などの主要産業がこぞって恩恵を享受できる。
トランプは存在しない問題をでっち上げて、関税絡みの圧力を課しているようにもみえる。それでも、インドにとっては中国から流出する資本を呼び寄せ、アメリカとの協力を促進する格好の機会だ。モディ政権は今すぐ、トランプの妄想をインドのチャンスに変えるべきだ。
©Project Syndicate
アルビンド・スブラマニアン
ARVIND SUBRAMANIAN
インドの経済学者。ピーターソン国際経済研究所の上級研究員、ハーバード大学ケネディ政治学大学院の客員講師。2014~18年にかけては、インド政府の首席経済顧問を務めた。
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