アサド政権が崩壊したシリアで10日、反体制派が北西部イドリブ県に設置していた「シリア救国政府」トップのバシル氏が移行政府の暫定首相に就任した。ロイター通信などが報じた。反体制派や旧政権の幹部はいずれも国内の融和を優先する方針を示しており、権力移譲に向けた具体的な動きが始まっている。
報道によると、バシル氏は10日、国営テレビの演説で救国政府と旧政権による閣議を開いたと明らかにした。来年3月1日までの任期中に旧政権から権力移譲を進めるという。
救国政府は2017年、反体制派を率いる組織「ハヤト・タハリール・シャム」(HTS)がイドリブ県を統治するために設立した行政機関。バシル氏は元エンジニアで、後にイスラム法などを学び、今年1月に救国政府の首相に就任した。
HTSは国際テロ組織アルカイダ系の「ヌスラ戦線」が前身で、米国や国連などから「テロ組織」に指定されている。だが、後にアルカイダとの関係を絶っており、イスラム原理主義的な統治とは距離を置く考えを示している。
国連でシリア問題を担当するペデルセン特使は10日、「HTSやほかの武装組織は今のところ、シリア国民に融和や包括性といった良いメッセージを発信している」と評価した。
首都ダマスカスでは10日、多くの銀行や商店が再開し、少しずつ日常が戻り始めた。反体制派は戦闘員に対し、都市部から撤退するよう要請し、HTSを主体とする治安部隊や警察が治安を担うことを決めたという。
一方、シリアと敵対してきた隣国イスラエルは10日もシリア国内の軍事施設などに空爆を続けた。ロイター通信によると、西部ラタキアではシリア海軍の艦船6隻が標的にされ、このうち5隻が沈没した。港湾施設にも被害が出ているという。
イスラエルはアサド政権崩壊以降、自国の安全保障を高めるためにシリア各地に攻撃を加えており、占領地ゴラン高原からシリア領内へ侵入したとも報じられている。イスラエルによる軍事活動が激化すれば、シリア国内で反イスラエル感情が高まり、国内の安定化に影響を及ぼす可能性もある。【カイロ金子淳】
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