3日夜、韓国の尹錫悦大統領が突如「非常戒厳」を発令して、韓国内が大混乱になった。非常戒厳は、戦時下など非常事態に発令され、軍による統制力強化、言論や集会の自由などが制限される制度。今回は戦争ではなく、多数を占める野党により、政策を阻まれ続けた尹大統領が“逆クーデター”として国会解散を狙ったものだったが、深夜に解除要求決議を可決され、わずか6時間で解除。実質的には“不発”に終わった。
【映像】軍と市民が衝突 騒然となる韓国の国会議事堂
日本では性質が異なるものの、憲法改正において「緊急事態条項」が論点の1つとなっている。大規模な災害や戦争、テロなどの緊急事態が発生した際、政府の権限や国会のルールを定めるものだ。『ABEMA Prime』では、韓国で発令された非常戒厳の状況を見つつ、日本に緊急事態条項が必要か否か、その是非を議論した。
■日本で議論される「緊急事態条項」の必要性
緊急事態条項が必要とされる主な理由は、大規模災害や戦争、テロなどが発生した際、国会を維持するために迅速に権限を集中できることにある。安全保障が脅かされる事態で指揮系統の統一をするためだ。過去にはコロナ禍に「緊急事態宣言」が発令されたことがあり、不要不急の外出の自粛、都道府県をまたぐ移動の自粛呼びかけ、学校の臨時休校、飲食店の営業時間短縮の要請、海外からの入国制限強化などがなされた。
SNSで緊急事態条項に反対する発信を行った立憲民主党・藤原のりまさ衆議院議員は、韓国で非常戒厳が出たことに触れ「日本で緊急事態条項がなくてよかったと率直に感じた。日本は正規の軍隊がないので、あのような物々しい状況にはならないと思うが、それでも人権の自由が制約される、あるいは三権分立を原則とした統治が破壊される危険を意識しなければならない」と述べた。
このほか、緊急事態条項の創設に反対する意見としては「緊急事態のもとで議員の任期が切れて政権に独裁者が居座る可能性があり、国民が支配され、権力者が恣意的に緊急事態を作れる」「国会を通さずにいろいろなものが決まり、大規模予算すら使えてしまう」「そもそも憲法改正はあっていけない」など、様々な声がある。
これに前参議院議員の音喜多駿氏は反論。「韓国でこういうことが起きたから、日本で緊急事態条項がいらない、それ自体が間違っているというのは、いささか踏み込みすぎだと思う。緊急事態宣言でも、ある意味取り決めがないから、なし崩し的に営業権や移動の自由が制限された側面もある。事前にルールを作っておくということは極めて重要で、今回の事態一つをとって、それそのものがダメだという議論にはならないのでは」と述べた。
また2ちゃんねる創設者のひろゆき氏は、韓国の非常戒厳では、国会で解除要求決議を可決され、わずか6時間で解除されたことにより、大混乱が生じたもののけが人が出なかったこともポイントとした。「今回、戒厳であるにもかかわらず、けが人が出ないで終わったのであれば、(解除という)ストッパーはちゃんと機能した。隣の国で大統領がやらかした時に緊急事態条項が必要か否かを判断すべきではない。戦争があった時、条項があった国とない国でどう違ったかを判断すべき。言い方を変えるなら、例えば緊急事態条項がない状態で日本にどこかが攻めてきた、原発を押さえに来た人たちを止めないとまずい、もっと被害が出るという時に、緊急事態条項によってその場で何かしらの暴力的行為で止めれば、そのおかげで人の命が助かる。そのために必要な時があると思っている」と語った。
■改憲での創設に賛否両論
韓国の情勢に詳しい龍谷大学教授の李相哲氏も、韓国での非常戒厳と緊急事態条項を比較した上で、制度の必要性とその運用について述べた。「制度はあった方がいい。ただその制度をどのように整理をするか。例えば日本も自衛隊がいて、武力を持っている。それは暴力に走る可能性があるから、それを制御する憲法もあるし装置もある。韓国の場合は憲法で大統領が非常事態を宣言する権限があるが、憲法77条で戒厳が不当だと、国会議員の過半数が議決すれば戒厳は解除しなければならない。それが機能しない場合は、誰か野心家が出てきてクーデターを起こすことがありうるが、それを制御するのは世論や国民。制度と運用は分けて考えた方がいい」と説明した。
ただ、この運用について藤原氏は韓国のケースが「僥倖だった」と表現。今回は国会議員の過半数が集結し、非常戒厳の解除が可決されたが、先に軍が国会を制圧していれば、現在でも非常戒厳が継続していた可能性が高いからだ。「たまたまそのストッパーが機能したのは僥倖。制度が完備されていたから必然的に止まった逆クーデターではない。不安定な制度、あった方が危険な制度という側面は無視できない」と指摘した。また、有事に備えた法制化については反対ではないという立場を示した上で「憲法まで遡ってやる必要がないと言っている。現に法制化されている条文を擁した法律はたくさん存在する。憲法という最高法規まで遡ってそれをやるかやらないかの話であって、三権分立まで崩してまでそれをやりますかということは、慎重に話すべきだ」と述べた。
これにひろゆき氏は「憲法を変えないで全てのものが対処できるなら僕も藤原先生に同意だ。ただ、(現行の)憲法を超えた範囲でやらなきゃいけないこともある。原子力発電所的なところを外国人が選挙して日本人、民間人を盾にした時、犯人を殺せば何百万人が助かるかもしれない時、現場の警察官や自衛隊に殺していいと今の法律で言えないのでは。憲法を変えないとできないような事態が想定されるなら、そこは憲法を変えなきゃいけない」と、有事をイメージして改憲の必要性を説いた。
また李氏も「韓国の戒厳は戦後、数回しか発動していない。しかも戦争のために作った戒厳ではなく、例えば一般市民が略奪に走って収拾がつかなくなったとか、そういう時でも戒厳はしくことができる。だから必ず戦争が起きたから使うものでもなく、国家の秩序を取り戻すために、何が一番素早い対処方法かという時に、最高で最後の手段が戒厳。文民統治の民主主義国家で、一時的に秩序を戻すもの」と付け加えていた。
(『ABEMA Prime』より)
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