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<破壊的な閣僚人事を連発する次期米大統領の言動は、カオスによる権力奪取を狙った中国の文化大革命とよく似ている>
なぜ今、アメリカで毛沢東なのか? キーワードは復活と混乱だ。毛は現代中国「建国の父」だが一度は失脚しかけ、雌伏7年、不屈の闘志で1966年に復活を果たしている。
彼が仕掛けたのは「文化」戦争だ。ある演劇作品への批判をきっかけに、中国共産党に入り込んだブルジョア的要素への攻撃と、自分に逆らう党幹部の排除を始めた。さらに首都・北京の大学生を動かして、体制内エリートに「裏切り者」や「反革命分子」のレッテルを貼らせた。
若者たちは熱狂した。約10年にわたる「文化大革命」の始まりだ。毛沢東は「司令部を砲撃せよ」との檄を飛ばした。「造反」は全国に広がり、国中が大混乱に陥った。若者たちが権威者・権力者に襲いかかり、数え切れないほどの人が死んだ。
2000年代初頭に記者として中国に駐在していた筆者は、初期の中心的活動家だった元大学講師の聶元梓に取材したことがある。当時84歳になっていた彼女は、「まさかあんな大惨事を招くとは思っていなかった。事態を理解してからは、活動をすぐにやめた」と語り、すごく後悔している様子だった。
だが毛沢東に後悔はなかった。むしろ混乱に狂喜し、「天下の全てが大混乱、実に素晴らしい」と述べたとされている。
そもそも、文化大革命は毛沢東が自らの権威と権力を取り戻すために始めたもの。そのため何よりも、49年の共産革命以来一貫して中国を統治してきた諸制度、つまり党と政府の指導部および官僚機構の破壊を目指した。
バルコニーから拍手をする毛沢東 BETTMANN/GETTY IMAGES学問は捨てろ。伝統には敬意を払うな。それが合言葉で、有能な管理者・経営者が徹底的に批判され、教育制度は破壊され、大学は実質的に機能を停止していた。
その一方、あの時代には毛沢東への絶対的な忠誠が求められた。権力の上層部にあってあの時代を生き延びるには、ひたすら毛沢東にこびを売るしかなかった。彼の知恵に疑問を呈する者(例えば当時の国家主席だった劉少奇)には解任と追放、そして死が待っていた。
毛沢東の仕掛けた文化大革命で天安門広場を埋め尽くした若者たち BETTMANN/GETTY IMAGESトランプへの絶対的忠誠
11月5日の米大統領選でドナルド・トランプが当選を決めて以来、筆者は何度もあの時代に思いをはせた。今でも中国では最悪の時代として記憶され、表立って口にすることもはばかられる時代だ。
復活を果たしたトランプの下で、アメリカが文化大革命並みの破壊と混乱と暴力を経験することになると、予測するつもりはない。アメリカの多元主義と長い歴史に裏付けられた民主主義の制度は頑強だから、あんな運命は回避できる。そう信じたい。
しかし絶対に大丈夫と言えるほどの自信はない。政権移行のプロセスはまだ始まったばかりだが、往時の中国との類似点が多すぎるからだ。
例えば、トップに立つ者への絶対的な忠誠心について考えてみよう。テキサス州を地盤とする共和党下院議員のトロイ・ネールスは最近、トランプを評してこう語っている。
「あの人には天から授かった使命があり、その目標と目的の全てを、私たちは一言一句、受け入れる必要がある。ドナルド・トランプが1メートルジャンプして頭をかけと言ったら、みんな1メートルジャンプして頭をかくんだ」
「みんなジャンプして頭をかくんだ」ネールス下院議員GOP Congressman: "If Donald Trump says 'jump 3 feet high & scratch your head,' we all jump 3 feet high & scratch our heads"
— Rob Bonta (@RobBonta) November 14, 2024
The cowardly bending of the knee continues
Not in CA where progress will prevail & we'll punch back against Trump if he impedes it pic.twitter.com/lIF1SBLIN6
ネールスの言い方は乱暴だが、彼にそう言わせた思いは多くの共和党員に共通している。トランプが決めたことに文句は言えない、なにしろトランプは今回の選挙で「国民の強い信任」を受けたのだから。彼らはそう言う。
だが、トランプは必ずしも地滑り的な勝利を収めたわけではない。選挙人の獲得数では民主党のカマラ・ハリスに大差をつけたが、有権者の一般投票に関する限り、トランプの得票率はちょうど50%で、ハリスとの差は1.6ポイントにとどまる。
トランプの政権移行チームが発表する閣僚人事に、共和党議員が口をそろえて賛同しているのも、文化大革命時代の中国とそっくりだ。実際にはどう見ても資格がなく、経験もなく、不適切で、中には犯罪行為への関与が疑われる人物もいるのだが。
いい例が司法長官に指名された(が後に自ら身を引いた)マット・ゲーツだ。彼はトランプへの忠誠心の塊だが、司法関連の経験はほとんどない。性的不品行や知人への便宜供与、自分に対する公的調査の妨害を試みた疑いもある人物だ。
本人はいずれの疑惑も否定しているが、現に下院倫理委員会の調査対象となっている。CNNの報道によれば、同委員会で証言したある女性は、未成年の頃にゲーツと性的関係を持ったと述べている。
2021年1月6日に連邦議会議事堂を襲ったトランプ支持派 ABACA/AFLO保守派のベテラン選挙参謀であるカール・ローブはウォール・ストリート・ジャーナルへの寄稿で、ゲーツが指名されたのは「能力があったからではなく、司法省に巣くう反トランプ派を一掃し、省外の敵対勢力を訴追すると誓ったから」だと指摘した。
マークウェイン・マリン上院議員(共和党)もCNBCに対してほぼ同じ指摘を行い、「トランプはゲーツを、司法省を殴りつけるためのハンマーと見なしているのだろう」と述べていた。
共和党の一部議員は一連の疑惑を受けて、ゲーツを司法長官として支持することを拒否。ゲーツは結局、指名を辞退した。そこでトランプが新たに司法長官候補に指名したのがパム・ボンディだ。
ボンディもトランプへの忠誠心は厚く、彼のリベンジを熱く支持している。23年8月にはテレビに出演して「司法省、その悪質な検察官たちは訴追されることになる」と発言していた。
「彼らはディープステート(闇の国家)の一員で、先のトランプ政権時代にはうまく隠れていた。しかし今は正体がばれている。当然、みんな捜査対象になる」
筆者には、こういう発言が不気味なほど毛沢東的に聞こえる。実際、かつて毛沢東は言っていた。「われわれの友は誰か。われわれの敵は誰か。われらの革命ではそれが最も重要」なのだと。
中国を大混乱に導いたあの時代のもう1つの特徴も見て取れる。われらが気高き指導者の言うことは全て(もしもそれがアメリカ社会の諸制度の破壊につながるとしても)正しいと、共和党議員の大半が信じて疑わないことだ。
こうした妄信が60年前の中国を大混乱に陥れ、想像を絶する悲劇と損害を招いた。いや、そんなアナロジーは別にしても、トランプが要職に指名した人物の多くが、その役職にほんの少しでも適した資質を持っていると認めることは到底できない。
狙いは「敵対的買収」?
国防長官候補のピート・ヘグセスは高いレベルの防衛政策に関する経験を欠き、巨大組織を運営したこともない。本人は否定しているが複数の性的暴行疑惑に直面しており、キリスト教原理主義者とのつながりも指摘されている。
アメリカにとって最重要な同盟であるNATOに出向く大使にはマシュー・ウィティカーが指名されたが、彼には外交や国際政治の知識が一切ない。国家情報長官候補のタルシー・ガバードは陸軍予備役の中佐でイラクにいた時期もあるが、高レベルの諜報活動や管理・運営について特筆すべき経験はない。
保健福祉長官に指名されたロバート・ケネディJr.はワクチンに反対するなど、医学の常識を否定する発言を繰り返してきた。トランプが廃止を宣言している教育省の長官に指名されたリンダ・マクマホンにはプロの教師としての経験がなく、教育学の学位を取得したという虚偽の主張をした過去がある。
メディケア(高齢者医療保険制度)とメディケイド(低所得者医療保険制度)を統括する責任者に指名されたメフメット・オズは心臓外科医だが、行政や公衆衛生に関する経験はない。国立公園などの保護を担当する内務長官候補のダグ・バーガムは、そうした土地でも石油を掘れと熱心に主張してきた人物だ。
こういう人選を見ていると、トランプは本気で連邦政府をぶち壊し、アメリカ社会を奈落の底に突き落とすつもりのように思えてくる。
なにしろトランプの政権移行チームは現時点で(権限の移行に必要な)倫理規定への署名を拒んでいるし、FBIによる閣僚候補の身辺調査にも抵抗している。そうであれば、トランプが目指すのはアメリカ政府の「敵対的買収」なのか。
いや、そこまでは無理だろう。それでも1期目のトランプ政権で「首席戦略官」に就き、いわゆる「ディープステート」との戦いで旗振り役を務めたスティーブ・バノン(今は本業の極右陰謀論拡散に励んでいる)は先頃ニューヨーク・タイムズの取材に応じ、こう語っている。
「ドナルド・トランプはアメリカの政治システムに強いトラウマを残す鈍器」であると。
ご用心を。
From Foreign Policy Magazine
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