韓国で突如宣言された「非常戒厳」。軍が国会への侵入を試み、抵抗する人々ともみ合いに…武装した兵士に「恥ずかしくないの!?」と叫ぶ女性の姿も。尹大統領は「北朝鮮勢力の脅威から韓国を守る」と主張しましたが、専門家は「陰謀論」と指摘しています。

ソウル市内に集まったおよそ1万人の群衆。掲げた紙には「内乱罪 尹錫悦 退陣」の文字。前代未聞の事態を起こした大統領への抗議です。

3日夜、ソウル市内のサッカー場に着陸した複数のヘリコプター。降りてきた兵士たちが足早に向かったのは、すぐそばにある韓国の国会議事堂です。

兵士たちは窓ガラスを割り、侵入。国会内では侵入を防ごうと、腕を組んだ関係者たちが“壁”を作り、ソファなどでバリケードを張っていました。

「こっちに来る!入れるな」

ドアがこじ開けられましたが、消火器で応戦。撃退に成功したようです。

国会のエントランス前では、もみ合いが発生。銃で武装した兵士に女性が掴みかかっていました。

女性
「離して!」
兵士
「離れて!」
女性
「恥ずかしくないの!?恥ずかしくないのか聞いてるの!」

この女性は元ニュースキャスターで、野党の報道官を務める人物です。

なぜ混乱は起きたのか。発端は、尹錫悦大統領の「宣言」でした。

尹錫悦 大統領
「親愛なる国民の皆さん。私は北朝鮮共産勢力の脅威から韓国を守護し、国民の自由と幸福を略奪している破廉恥な従北反国家勢力を一挙に一掃し、自由憲政秩序を守るために非常戒厳を宣言します」

尹大統領が宣言したのは「非常戒厳」。政治活動やデモの禁止、報道機関の活動の制限などが含まれ、軍隊が動員されました。

「北朝鮮勢力」と名指しした尹大統領ですが、背景には支持率の低下があると専門家は指摘します。

神戸大学 木村幹 教授
「世論調査を見ると主に大統領を批判する理由は大きく2つ。1つは夫人である金建希さんをめぐるスキャンダル。不正を働いているんじゃないかという批判。もう1つが経済状況が上を向かない、パフォーマンスは上がらない、しかもスキャンダルはある、支持率はジリジリ下がっていく。彼自身はその背後にもっと大きな陰謀があって、北朝鮮が後ろにいて野党を操って、韓国の体制を破壊しようとしているシナリオ、ある種の陰謀論を組み立てることによって彼の頭の中で政権の危機という図式ができてしまった」

記者
「国会議事堂の前には、戒厳令に反対する大勢の市民が集まっています」

道路に寝そべったり、座り込んだり、軍用車を取り囲んだり。市民たちが抗議の意志を示していました。

市民
「国民として一歩前に出て行動を起こすべきだ。こんなことはあってはならない。独裁時代に逆戻りしたようだ」
「ニュースを見て不安になった。国の恥だと思う」

韓国で「非常戒厳」が宣言されるのは44年ぶりです。宣言下の1980年に起きた「光州事件」では、軍事政権に抵抗する市民が軍に鎮圧され、多くの犠牲者が出ました。

3日夜、突如宣言された「非常戒厳」でしたが、その後、4日未明の国会で…

「(決議案は)可決されました」

解除を求める決議が与党議員を含む全会一致で可決。これを受けて尹大統領は、再び談話を発表します。

尹錫悦 大統領
「先ほど国会の戒厳解除要求があり、投入されていた軍を撤退させた」

「非常戒厳」は、わずか6時間ほどで解除されました。この間、尹大統領にどんな心変わりがあったのか。専門家は、その最大のポイントを国会の封鎖に失敗したことだと話します。

神戸大学 木村幹 教授
「大統領の指示通りに警察も軍隊も動かなかった。真剣に国会の封鎖をしようとしなかったということに尽きる。自分がいかに孤立・周囲の信頼を失っているか、気付かざるを得ない状態。夢から覚めたような状態。自分が信じていたものが目の前からぱっとなくなるような感じ」

ただ、非常戒厳の宣言は解除されたものの、野党側は「憲法と法律に違反して発令した」と反発します。

最大野党「共に民主党」 李在明 代表
「(尹大統領は)国民が与えた権力で、国民に向けてクーデターを起こしました」

尹大統領を内乱罪で告発したほか、弾劾訴追案を提出。国会議員の3分の2にあたる200人以上が賛成すれば可決されます。韓国メディアによりますと、早ければ採決は6日に行われるということです。

可決されれば、尹氏の大統領権限は停止され、憲法裁判所が罷免するかどうかを180日以内に判断することになります。

今後の動きについて専門家は。

神戸大学 木村幹 教授
「この状況で弾劾案が出てきて通らない理由はない。とてもじゃないけど大統領を支持できない状態にあるだろう。逆に尹大統領からすると、勝ち目がない戦いに突っ込んで、最後まで戦うのか、弾劾されるのか、いっそのこと自分でやめてしまうのか、決断を迫られるシチュエーションが近づいている」

小川彩佳キャスター:
尹大統領の動向に注目が集まっていますが、その後、動きはありそうでしょうか。ソウルからの報告です。

渡辺秀雄 ソウル支局長:
尹大統領は4日午後、韓悳洙首相や「国民の力」の韓東勳代表らと会談し、今後の対応を検討したということです。その後、韓東勳代表は記者団の取材に応じ、「韓悳洙首相らに尹大統領の離党を要求した」と明らかにしました。

複数の韓国メディアによりますと、尹大統領が非常戒厳を宣言したことに伴う混乱をうけ、全ての閣僚が韓悳洙首相に辞意を伝えたということです。

一方、野党6党は4日午後、共同で尹大統領の弾劾訴追案を国会に提出しました。5日午前0時すぎには本会議を開き、訴追案を国会に報告する方針で、採決は早ければ6日に行われます。

大統領による戒厳宣言に対する反発は広がっていて、ある女性は「昔、軍事政権を見ていたので放っておくことはできない」と憤っていました。

韓国では軍事政権から民主化した歴史があり、軍が国会議事堂に突入した今回の事態を否定的に見る人は少なくないように思えます。

ソウル中心部では4日夜、朴槿恵元大統領を罷免に追い込んだ「ろうそく集会」が行われました。1万人が参加し、尹大統領の退陣を求めていて、混乱はしばらく続きそうです。

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