ドゥテルテ(左)とマルコスの蜜月はあっという間に終わった(22年6月) ELOISA LOPEZーREUTERS

衝撃的な発言が飛び出したのは、11月23日のオンライン記者会見でのことだった。この会見でフィリピンのサラ・ドゥテルテ副大統領は、彼女自身の命に対する陰謀があり、もし自分が暗殺された場合には、フェルディナンド・マルコスJr.大統領夫妻と、大統領のいとこでもあるマーティン・ロムアルデス下院議長を殺すために人を雇って指示してあると述べた。

捜査当局は、この発言が犯罪に該当する可能性を指摘。すると、ドゥテルテはすぐさま、殺害を計画しているわけではないと釈明した。


ドゥテルテは26日、記者会見での発言は文脈を無視して切り取られたものであり、「計画」はあくまでも自分が暗殺された場合の話だと強調した。「政権に問いたい。『墓場の中からの報復は犯罪なのか』。この計画は実体のないものだ」

政権側は殺害予告を軽く受け流すつもりはない。マルコスは25日にビデオメッセージを公開し、「見過ごすことはできない」と発言。国家捜査局は26日、ドゥテルテに出頭を求める召喚状を発した。

この1年半ほどの間、マルコスとドゥテルテは激しく反目し合ってきた。

2人は2022年の大統領選前に手を結び、マルコスが大統領候補、ドゥテルテが副大統領候補として立候補し、2人とも地滑り的な圧勝を収めた。しかし、共闘は長続きしなかった。性格と政治的利害の不一致により、関係がたちまち悪化したのだ。

今年6月には、副大統領と教育相を兼務していたドゥテルテが教育相の職を辞任し、大統領一派に「利用された」と感じていると不満を述べていた。ドゥテルテは23日の会見でも、マルコス政権が「政敵を巧みに迫害する一方で、国民に奉仕していない」と批判している。

こうした攻撃に対し、マルコス陣営は国家権力を使って反撃している。議会のマルコス支持派は、ドゥテルテが副大統領および教育相として政府資金を不正利用した疑いについて調査を開始した。23日の会見も、この疑惑に関して行われたものだった。


議会は、かつての超法規的殺人をめぐり、ドゥテルテの父親であるロドリゴ・ドゥテルテ前大統領に対する調査にも乗り出している。ドゥテルテ父も、マルコス政権への批判を繰り返してきた。

両陣営の対立は、今後さらに激化するだろう。2025年5月の中間選挙(議会選と地方選を実施)は、マルコスとドゥテルテの代理戦争になると予想される。しかも、サラ・ドゥテルテは2028年の大統領選への意欲も示している。

ドゥテルテ陣営は、自分たちの行動を1986年の「ピープルパワー革命」と重ね合わせ始めている。この革命では、大規模な民衆運動により、マルコスの父フェルディナンド・マルコスの長期独裁政権が崩壊した。

サラ・ドゥテルテは最近、マルコス家が1983年に反体制指導者のベニグノ・アキノ上院議員をマニラ空港で暗殺したと非難した。この暗殺事件がマルコス独裁政権への人々の怒りに火を付け、それがピープルパワー革命につながっていった。

ピープルパワー革命の記憶は、多くのフィリピン国民にとって神聖なものであり、体制変革の象徴でもある。ドゥテルテ陣営がこの歴史を前面に押し出し始めたことは、マルコス家とドゥテルテ家の戦いが今後、より熾烈な段階に移行することを意味している。


From thediplomat.com

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