1996年に番組「世界遺産」がスタートして今年で29年目、これまでに700以上の世界遺産を撮影してきました。その中で「行ったスタッフが好きになって帰ってくる」世界遺産のひとつが、ラオスの街・ルアンパバーンです。これまでに1998年と2015年に2回放送し、今年3回目の撮影を行ったのですが、撮影に行って帰国したディレクター3人みんなが「好きになった」と口を揃えます。なぜなのか・・・その秘密に迫ります。
撮影スタッフから人気の世界遺産「ルアンパバーン」そのワケは?
ルアンパバーンはかつてのラオスの都で、今でも王宮(現在では博物館)が残っています。その王宮を含む街全体が世界遺産に指定されているのですが、中心部はメコン川とその支流に挟まれた半島のような形をしています。この「半島状の市街」というのがルアンパバーンの最大の特徴。半島状の市街の長さは1キロほど、幅も数百メートルと広くなく、王宮や古い寺院など名所旧跡が集中しています。
そのため撮影のための移動が少なく、有り体にいえば「撮るのが楽ちんな」世界遺産なのです。世界遺産の中には、山岳地帯を一週間移動しつづけて撮影するような、すさまじく移動がハードなものもあります。それらに比べればルアンパバーンは天国・・・これがスタッフ受けの良い理由のひとつではないかと思います。
時の流れがゆっくり…早朝のお坊さんたちの托鉢 心身も清澄になっていくような気分に
スタッフ受けの良い理由のふたつ目が、街の雰囲気。時間の流れるスピードがゆっくりで、かつての王都でありながら鄙びた感じがあります。同じインドシナ半島のタイのバンコク、ベトナムのハノイなど現役の首都は喧噪に包まれ、三輪タクシーのトゥクトゥクに乗るときにも「料金とか、だまされないようにしないと・・・」とある種の緊張を強いられます。こうした生き馬の目を抜くような緊張感は、ルアンパバーンにはほとんどありません。ラオスの首都がヴィエンチャンに移ってしまい、いまでは現役の都ではなくなったおかげかもしれません。
さらにルアンパバーンの雰囲気をいい感じにしているのが、早朝のお坊さんたちの托鉢。
街にはルアンパバーン様式といわれるオレンジ色の三角屋根をいくつも重ねたような寺院が点在し、世界遺産エリアだけでも34もあります。こうした寺院から、毎朝5時すぎになるとオレンジ色の袈裟を着たお坊さんたちがぞろぞろと現れ、夜明けの街を列をつくって歩いて行きます。お寺ごとに歩くルートが違い、その道沿いに街の人々が座って待っていて、餅米やお菓子などをお坊さんたちに渡していくのです。
私もルアンパバーンに行ったときに、毎朝この托鉢に付いて回ったのですが、早朝の澄んだ空気の中にお坊さんたちが時折立ち止まって唱える念仏が流れて、自分の心身も清澄になっていくような気分になりました。
テレビの制作現場は緊張感が続き、あまり健康的な生活ではないことが多いので、こうした気分を味わえるロケ現場は貴重だと思います。
朝市には新鮮な野菜、魚、果物 調理の仕方が日本人向けで食事に困らない
ルアンパバーンがスタッフ受けの良い理由、3番目は食事です。街の中心部には朝市がたつのですが、メコン川で捕れた魚、豊富な野菜や果実が並び、食材の豊かさが実感出来ます。また調理の仕方が日本人向け。隣国タイ料理も美味しいですが、さらに軽くしたような感じで脂っこくなく、それでいて香草やナンプラーを使っているので味にメリハリがあります。
ロケ現場での食事はきわめて大事で、特に「世界遺産」のような長期間の撮影だと、辛かったり油を大量につかったパンチの効いた料理が続くとスタッフはげんなりしてしまいます。この点、ルアンパバーンの食事は胃が疲れず、さらにかつてフランス統治下にあった影響から西洋料理の要素を取り入れたレストランもあるので、撮影スタッフの食事に困らないのです。
以上、ルアンパバーンが「世界遺産」のスタッフ受けの良い理由を記してきましたが、これらは観光に際しても大きなメリットになります。たとえば街のコンパクトさ。半島状の市街を貫くように大通りが走っているのですが、この通りに沿って歩いてほぼ全ての名所旧跡を見て回ることが出来ます。街の雰囲気の良さ、食事の美味しさも含めて、観光にもお勧めできる街がルアンパバーンです。
執筆者:TBSテレビ「世界遺産」プロデューサー 堤 慶太
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