バルダの近くにある村で、学校に向かう子どもたち。紛争中はバルダでもミサイル攻撃による一般人の犠牲者が出た=アゼルバイジャンで2024年9月27日、和田大典撮影
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 「火の国」と呼ばれるアゼルバイジャンの首都バクー。地表から噴き出る天然ガスで燃え続ける火を見ようとゾロアスター教寺院のアティシュギャーフに向かうバスに乗った。窓からは、ぽつぽつと油田の採掘施設が目に入る。さらに目立つのは殉教者たちの遺影だ。アルメニアとの戦いで戦死した兵士の肖像を掲げる慰霊碑が、町のいたるところにある。刻まれた没年は1990年代や2020年が多い。

 「こっちも見てほしい」。若い兵士の慰霊碑の前で出会ったアゼル・アサドフさん(62)の自宅に招かれた。

 アサドフさんの息子サブヒさんは20年、西の隣国アルメニアとの係争地ナゴルノカラバフで戦死したという。21歳だった。サブヒさんが育った部屋は写真や肖像画、学校で着ていた制服、小さい頃に買ってあげたぬいぐるみなどの遺品がびっしり並んでいた。

 「息子が小さい頃、一緒にレスリングをしたのが懐かしい思い出だ」とアサドフさんは話す。知人が壁に描いてくれた大きな木には2羽のハトがいる。飛び立とうとしている1羽は息子を、枝に止まっている1羽は婚約者を表している。「生きていれば、ここで一緒に暮らしていたよ」

 長くアルメニア側が支配してきたナゴルノカラバフは、20年の軍事衝突以降、トルコの支援を受けたアゼルバイジャンが攻勢を強め、昨年に全域を奪還した。

 アサドフさんが息子の遺体を引き取りに行ったバルダの町はかつての「国境」近くに位置する。戦時にはミサイル攻撃で一般市民の死傷者も出た。今はナゴルノカラバフにつながる幹線道路を車が行き交い、線路も敷かれている。

 現在「戦火」はやみ、両国政府間で平和条約締結へ協議が進められている。

 首都のゾロアスター教寺院では風に吹かれて、それでも消えない炎の周りを外国人ツアー客が囲み、記念撮影を楽しんでいた。戦闘の傷痕が残るカラバフ地域にも「安全が確保されれば、いずれ観光客も行けるようになるだろう」と住民たちは話していた。【和田大典】

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