トランプは1期目からプーチンとの良好な個人関係を強調している(写真は19年6月、G20大阪サミットに合わせて行った首脳会談) KEVIN LAMARQUEーREUTERS
<NATO憎し、中国嫌いで、ロシアとの関係再構築を目指す落とし穴>
ドナルド・トランプ次期米大統領は早くも、自分が最も尊敬する強権的指導者の1人に心を乱されている。
トランプが世界中の指導者からこびへつらう電話を受けている場面は想像に難くない。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相、パレスチナ自治政府のマフムード・アッバス議長、NATO事務総長、ヨーロッパの国家元首。
しかし、その間も彼は思いあぐねていただろう。「ウラジーミルはいつ電話をかけてくるのだろうか」
アメリカでは11月10日、投票日から2日後の7日にトランプがロシアのウラジーミル・プーチン大統領と電話で会談し、ウクライナの戦争をエスカレートさせないように呼びかけたと報じられた。ただし、クレムリンの報道官は、2人は電話で話していないと完全に否定。プーチンは7日の記者会見で、公の場で初めてトランプに祝意を表した。
どちらも誠実な人間ではない以上、どちらが本当のことを言っているのか、私には分かりかねる。もしトランプが、プーチンが友好の証しとしてウクライナへの攻撃を控えるだろうと考えているのなら、2期目の早い段階で、国益に関わる際は個人的な人間関係に限界があることについて、教訓を学ぶかもしれない。
そして11日、長くロシアの諜報機関の中枢にいたニコライ・パトルシェフ大統領補佐官がコメルサント紙に次のように語った。「トランプは選挙で勝つために、相応の義務を伴う特定の勢力に依存した。責任ある立場として、彼はそれらの義務を果たさなければならない」
われわれがあなたを大統領にした、今度はあなたがわれわれに恩を返す番だ、と言っているも同然だ。
選挙戦の終盤に、ロシアが偽の動画を作成して拡散したことは周知の事実だ。FBI、国家情報長官室、サイバーセキュリティー当局は珍しく共同で声明を出し、ロシアによる偽情報工作だと警告した。
ただし、トランプ陣営が関与しているとか何か知っているという証拠はなく、そうした主張をする人もいない。仮に関与しているか、ロシアがトランプについて他の形で「コンプロマート(不名誉な弱みとなる情報)」を握っているとしたら、パトルシェフは大胆にも次期米大統領を公然と脅迫したことになる。
個人的な関係を生かせるのか
ロシアの情報工作の規模と根深さをトランプがどこまで認識しているかは分からない。1期目の2018年にフィンランドでプーチンと会談後、記者会見で16年の米大統領選へのロシア介入疑惑について自国の情報機関よりプーチンを信じると述べた。
さらに、トランプは多国間同盟、とりわけNATOを嫌っており、ウクライナへの軍事支援は金の無駄遣いだと考えている。そして、アメリカの真の敵である中国を追い詰めるためにも、ロシアとの良好な関係を再構築したいという願望は、共和党のMAGA(偉大なアメリカを再び)派に支持されている。
トランプはプーチンが自分の友人ではないと気付いたときに(もし気付いたとして)、立場を変えるのか、あるいは立場を変えることができるのか。少なくとも友人であるかのように振る舞うべきではない。
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