トランプ次期米大統領は12日、国防長官に保守系ケーブルテレビ局FOXニュースの司会者で元陸軍州兵のピート・ヘグセス氏を起用する意向を表明した。中央情報局(CIA)長官にジョン・ラトクリフ元国家情報長官、大統領補佐官(国家安全保障問題担当)にマイク・ウォルツ連邦下院議員、国土安全保障長官に中西部サウスダコタ州のクリスティ・ノーム知事を起用する方針も発表。トランプ氏は「力による平和」を目指す考えを強調した。
トランプ氏は5日の大統領選から1週間で外交・安全保障分野の閣僚級人事をほぼ固めた。初当選した2016年大統領選後と比べると、トランプ氏や側近らの政界での人脈が広がり、候補リストも事前に準備が進展している。
米メディアによると、トランプ氏は国務長官には対中国強硬派として知られるマルコ・ルビオ連邦上院議員の起用を検討。国連大使にはエリス・ステファニク連邦下院議員を指名すると既に発表している。
トランプ氏は12日の声明で、ヘグセス氏は「タフで、賢く、『米国第一主義』を真に信じている。ピートが指揮を執ることは、米国の敵に対する警告だ」と述べた。ヘグセス氏はイラクやアフガニスタンに派遣された経験があり、2度勲章を受けた。FOXニュースで司会者を務める傍ら、退役軍人の処遇改善を求める運動にも関わってきた。
軍歴があるとはいえ、メディア業界から国防長官を起用するのは異例だ。ヘグセス氏は過去に軍法会議にかけられた軍人を擁護し、当時大統領だったトランプ氏に訴追撤回や恩赦を働きかけ、「軍の規律を乱す」と批判を受けたこともある。こうした経歴から上院での人事承認が難航する可能性もある。
一方、CIA長官に指名されるラトクリフ氏は、連邦下院議員時代から民主党に関連する疑惑を追及し、トランプ氏に近いと評されてきた。第1次政権で国家情報長官に一度指名された際、「露骨な情実人事」との批判を受けて辞退。しかし、その後に改めて国家情報長官に起用された。
メキシコとの「国境の壁」建設の本格再開や麻薬密輸対策を担う国土安保長官に起用されたノーム氏は、保守派の女性知事として知られる。連邦下院議員などを経て19年に知事に就任。新型コロナウイルス禍の中、マスク着用の義務化に反対し、保守派の間で知名度を上げた。
今回の大統領選で副大統領候補に名前が挙がっていたが、今年5月に出版した自伝で過去に「訓練がうまくいかなかった」という理由で1歳2カ月の猟犬を銃で殺処分したことを告白。「残酷だ」との反発が広がり、選考対象からも除かれた経緯がある。
トランプ氏は駐イスラエル大使にマイク・ハッカビー元アーカンソー州知事、中東担当特使に実業家のスティーブ・ウィトコフ氏を起用する方針も発表した。
ハッカビー氏は保守的なキリスト教福音派の牧師出身で、親イスラエル派だ。過去にはパレスチナの国家樹立を前提とする「2国家解決」を否定したこともある。一方、ウィトコフ氏は不動産業界で成功した実業家で、トランプ氏のゴルフ仲間でもある。
トランプ氏は第1次政権で、イスラエルと一部のアラブ諸国が国交を樹立する「アブラハム合意」を仲介した実績があり、信頼が厚い両氏の起用は中東外交に対する意欲の表れだとみられる。【ワシントン秋山信一】
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