認定スクールトレーナー制度のモデル事業として行われたストレッチングを教える講座の様子=兵庫県西宮市で(「運動器の健康・日本協会」提供)

 運動や部活動の際にけがをする児童生徒の割合が増えている。原因として運動不足と運動過多が挙げられ、きめ細かい対応が求められるという。こうした事態に対応しようと、学校に出向き、適切な運動方法を子どもらに指導する「スクールトレーナー」の認定制度が始まり、1期生130人が今夏、誕生した。14日はスポーツの日。(大森雅弥)  認定スクールトレーナー制度を創設した公益財団法人「運動器の健康・日本協会」によると、児童生徒が体育の授業や部活動などでけがをした体育事故の件数は、1980年代に入って増加傾向となり、50万件を突破。新型コロナウイルスが拡大した2020年度に大きく減ったが、その後も40万件前後で推移している=グラフ。児童生徒数は1985年度以降減り続けているため、相対的に事故は増加。原因には運動不足と運動過多の両面が指摘されている。  運動不足について、同協会業務執行理事で東京大名誉教授の武藤芳照さん(73)=写真=は、子どもの遊びや生活の変化という時代的要因を挙げる。  かつて子どもたちは日が暮れるまで外で遊んだが、今は公園でブランコに乗りながらゲーム機で遊ぶ姿も珍しくない。日本の子どもたちは徒歩や自転車による通学が多く、それが日常生活での運動量増加につながると海外で評価されてきた。それも最近は地方を中心にスクールバスや自家用車移動に変わりつつある。  その結果、養護教諭からはささいなことでけがをする子どもが増えているという報告も。例えば、体育の授業で鬼ごっこ中に転んで腕を骨折▽跳び箱を跳べず落下して脚を骨折▽ボール投げで肩を故障-など。  一方、運動過多の背景には何があるのか。武藤さんは、一つの種目に特化したスポーツ指導を行う日本独特の文化的要因を指摘。そもそも体が成長発達段階にある子どもは複数の運動種目に取り組むことが望ましい。海外ではそれが一般的だが、日本では小学校低学年から、野球、サッカーなど1種目に絞った指導が行われがち。「特定の動きだけを続けるのは体に良くないし、楽しみよりも苦行になりかねない」と話す。

◆理学療法士の国家資格必須

 スクールトレーナーは、体を支えたり動かしたりする骨や関節、筋肉、腱(けん)、神経など「運動器」と呼ばれる器官を扱う。認定には運動器医療の専門家、理学療法士の国家資格が必須で、学校で適切な運動指導を広める役割を担う。  学校での体育事故の増加を受け、全国の学校健診には2016年度から運動器の項目が加わった。ただ、学校医の多くは内科や小児科が専門。健診の結果を受け、体の使い方までは指導できないのが課題だった。  武藤さんは「ストレッチングも大事だが、一番は子どもたちへの身体教育」と強調する。長年、スポーツ界における科学的指導の必要性を訴えてきた経験から「子どもたち自身が自分の体を知り、どう成長、発達するかを学ぶのがいい。何より運動の本質的な楽しさを感じてほしい」と話す。


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