生活に困っている人が無料や低額で医療を受けられる「無料低額診療事業」(無低診)を知っていますか。事業の制度を知らなかったり、実施医療機関が近くになかったりして、受診できず手遅れになる場合がある。三重県内で無低診をする津市寿町の津生協病院などは、「だれもが安心して治療が受けられるように」と制度の周知や拡充を求めている。

治療中断した男性「無低診で助かった」

 「医療費の負担が大きい。会社を休むと給料も減らされ生活できない」

 津市で独り暮らしの男性(52)は糖尿病の合併症で網膜症を患う。派遣会社に勤めながら通院していたが、そんな理由で治療を中断した。しかし2カ月後の2022年8月、嘔吐(おうと)がひどくなり津生協病院に救急搬送された。糖尿病が悪化しており約20日間入院した。「死ぬかと思った。無低診で助かった」

 津市で独り暮らしの別の男性(62)は高血圧や糖尿病を患う。トラック運転手だったが詐欺にあい大きな負債を抱えた。自暴自棄になって窃盗をした。服役後の23年9月、持病の治療で津生協病院の無低診を頼った。生活再建にお金が必要で、保険証もなかった。月3千円ほどの薬代はきつかったが医療費は負担せずに済んだ。

 現在はリサイクル会社に勤め、新たな生活をスタートさせた。「病院スタッフにも親身になってもらい人生をやり直すメドが立ちました」と笑顔で話す。

経済的理由で手遅れになった?死亡例も

 無低診は社会福祉法にもとづく制度で、医療費を支払うと生活が困難になる低所得者やホームレス、DV被害者らを対象とする。国や自治体が医療費を負担する生活保護受給者を除き、医療機関が本人負担分の全額か一部を負担する。

 厚生労働省によれば、全国では22年度実績で738施設が実施する。県内では津生協病院、済生会松阪総合病院(松阪市)、済生会明和病院(明和町)。津生協病院では23年度、18人(延べ74人)が利用した。

 全日本民主医療機関連合会(民医連)が加盟する全国の700医療機関に取ったアンケートによれば、経済的理由で手遅れになったとみられる死亡例は23年に48件あった。

 県内では、津市の50代男性が23年1月、腹痛を訴え、病院に緊急搬送された。胃がんや脳梗塞(こうそく)と診断され、約2カ月後に亡くなった。保険証はなくお金にも不自由していた。無低診を知らなかったらしい。

 死亡例48件の内訳は男性37人、女性は11人。年齢別では70代以上19人、60代16人、50代8人など。独居は25人いた。

 外国人労働者の増加に伴い、在留資格を失うなどして保険証がない外国人の無低診利用も目立っている。津生協病院には昨年度、そうした人が相談も含めて8人いた。

社会福祉士「人生やり直そうと思えるように」

 民医連は3月、「コロナ禍に続く物価高騰の中で、多くの国民が生活困難に陥り、無低診の役割は一層重要さを増している」として厚労相に要請書を提出した。

 ①改めて国が都道府県に対し、事業が重要な制度であることを示すこと②実施機関を増やし、薬代にも事業を適用すること③保険証のない外国人に無低診を実施した場合、国が費用を全額補塡(ほてん)すること――などとしている。

 津生協病院は、無低診の周知を呼びかけるとともに、薬代は自治体が負担してくれるよう求めている。同病院の社会福祉士、井谷真由美さんと脇谷いほさんは「どこにも相談できず自暴自棄になっていた人が安心して治療を受け、人生をやり直そうと思えるよう手助けしたい」と話している。

 同病院患者サポート室・地域連携室(059・225・2867)は受診前に問い合わせを求めている。(高田誠)

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