HPVワクチンの接種を受ける男の子=東京都渋谷区のフローレンスこどもと心クリニックで(認定NPO法人フローレンス提供)
子宮頸(けい)がんの主な原因として知られるヒトパピローマウイルス(HPV)。実は他のがんも引き起こすため、感染を防ぐワクチンの接種は男女ともに効果がある。海外では男性への接種が進んでおり、国内でも男性の接種費用を助成する自治体が出てきた。(河野紀子) 「HPVワクチンは子宮頸がんのイメージが強く、男性も接種が必要なことはほとんど知られていない。国内では男性にはほぼ接種されていないのが現状だ」。フローレンスこどもと心クリニック(東京)院長で、小児科医の田中純子さんは言う。◆喉や肛門のがんにも
HPV感染が原因の一つとなるのは、喉の奥にできる中咽頭がん、肛門がん、性器周辺にイボができる性感染症の尖圭(せんけい)コンジローマなど。HPVはありふれたウイルスで、男女問わず性交渉で感染する。コンドームを使っても完全に予防できないため、初めての性交渉の前にワクチンを接種することが重要になる。 田中さんは「男性への接種を進めることで、男性自身がHPV感染による病気のリスクを減らすだけでなく、将来のパートナーへの感染防止になる」と指摘。実は日本でも、2020年12月から男性は任意接種となっており、9歳以上はワクチンを打つことができる。一方で、女性と違って費用は全額自費で、1回2万円弱を3回、計5万~6万円かかる。 HPVワクチンを巡っては、子宮頸がんの予防のため13年4月、小6~高1の女子を対象に原則無料の定期接種に。ただ、接種後に体の痛みなどを訴える人が相次ぎ、国は同年6月に積極的勧奨を中止。その後に安全性が確認されたとして、22年4月から積極的勧奨を再開している。 田中さんは「勧奨中止の間は情報発信しにくく、男性接種の必要性が伝わらなかった。さらに費用が高額なことも大きなハードルとなっている」と話す。◆将来の感染に備えて
昨年1月、同クリニックと認定NPO法人フローレンス、一般社団法人「HPVについての情報を広く発信する会」(みんパピ!)が共同で、男性接種の1回目を無料で提供するキャンペーンを実施したところ、定員60人に140人を超える応募があった。接種を受けた男子は「母が自分の体のことを考えて勧めてくれたので、大事なんだろうと思った」「自分だけでなく、将来的に相手の感染を予防することにもつながる」などと話したという。 国内でも、男性接種の費用を自治体が助成する動きが出ている。青森県平川市は22年夏、全国で初めて助成制度をスタート。千葉県いすみ市、東京都中野区、埼玉県熊谷市なども続いた。さらに東京都は今年4月から、都内の自治体が助成する場合、費用の半額を都が補助することを決めている。 みんパピ!代表理事で産婦人科医の稲葉可奈子さんは「海外では40カ国以上で、HPVワクチンの男性への接種が公費で行われている」と説明。日本でも男性に対し、任意ではなく公費負担による接種が必要だと話している。
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