加齢により骨がもろくなった骨粗しょう症の人に多いのが、背骨が押しつぶされて起こる「背骨の圧迫骨折」だ。本人が気付かないことが多く、治療せずに背骨が曲がったままになると、さらなる圧迫骨折や転倒のリスクが高まる。早めの治療で重症化を防ぐとともに、予防のための運動を取り入れることも効果的だ。 (河野紀子)

■進まぬ周知

圧迫骨折により、背骨が大きく曲がった患者のエックス線写真(宮腰尚久教授提供)

 「背骨が曲がると、重心が前にずれて転びやすくなる。転倒によって別の骨折を起こし、寝たきりになったり、寿命を縮めたりすることもある」。秋田大大学院(秋田市)整形外科学講座教授の宮腰尚久さん(58)は言う。  宮腰さんによると、国内の骨粗しょう症の患者は推定1590万人。7割が女性で、閉経後はホルモンの変化で骨密度が下がりやすい。転倒などで骨折しやすく、太ももの大腿骨(だいたいこつ)を折ると要介護になることも。  骨粗しょう症による骨折の中でも、背骨の圧迫骨折は最も頻度が高い。背骨をつくる「椎体(ついたい)」がスカスカで、重い物を持ち上げるなど日常の何げない動作でも押しつぶされてしまう。40歳以上の5人に1人がなるとされるが、痛みが少なく時間がたてば治まるため、多くの人が治療していないと考えられる。  認識不足も課題だ。日本整形外科学会が昨年7月、40歳以上の女性1028人に尋ねた調査で、骨粗しょう症による背骨の圧迫骨折は痛みがなく気付きにくいことを「よく知っている」と答えたのは、2割弱だった。  「年を取ったら腰が曲がるというのは自然なことではなく、背骨の圧迫骨折の可能性が高い。エックス線写真を撮ると分かる」と宮腰さん。椎体がつぶれたままだと、周辺の椎体に負担をかけて、圧迫骨折が連鎖してしまう。複数になると背骨が大きく曲がり、大がかりな手術が必要になるため、早く気付いて治療することが大切だ。

■検診が大切

 気になる人は、背骨の曲がり具合を確かめるといい。壁を背にして立ったとき、壁と後頭部に隙間ができている、または25歳のときより身長が4センチ以上縮んでいる場合は、すでに背骨を圧迫骨折している可能性が高いという。  治療は、まず圧迫骨折した部分をコルセットで固定する装具療法だ。それでも痛みが残る場合は、つぶれた椎体に骨セメントを注入したり、さらに金属で固定したりする手術がある。  予防には、背中が曲がらないように背筋を鍛える運動療法が効果的だ。うつぶせに寝ておなかの下に枕を挟む。背中に力を入れ、上半身を10センチほど持ち上げ、5~10秒止めて、ゆっくり下ろす。1日10回、週5日が目安。海外の研究では、背骨の圧迫骨折を防ぐ効果が確認されている。すでに背骨が曲がっている人はできない。  また、自分が骨粗しょう症かどうか、検査することを宮腰さんは勧める。早期の薬物治療で骨密度を上げて、骨折のリスクを減らすことができるからだ。ただ、公益財団法人骨粗鬆症(こつそしょうしょう)財団の調べでは、40歳以上の女性を対象にした自治体の骨粗しょう症検診の受診率は、全国平均5・3%(2021年)と低い。  「骨粗しょう症とそれに伴う背骨の圧迫骨折は命に関わる病気。すでに背骨が曲がっている人は、高齢だから仕方ないと考えずに、整形外科を受診してほしい」と呼びかけている。


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