今は空前の「物を減らす」ブームですね。
物をたくさん持つことで豊かさを感じるのではなく、いかにシンプルで身軽に生きていくかというところに価値が置かれているようです。物の管理にはそれなりにエネルギーがかかるものだからでしょう。
- 連載「上手に悩むとラクになる」
筆者は長らく精神科医療の現場で働いてきましたが、入院して精神状態があまりに深刻な場合、患者さんの持ち物はいったんすべて預かり、回復の度合いに応じて自己管理する物を少しずつ戻すということがなされていました。もう20年も前の話ですが、そのぐらい物の保管には精神的エネルギーを費やすということですし、自分の管理できる以上の物に囲まれていると混乱を招くのだということでしょう。
そうした意味で現代人が、無駄なエネルギーをそぎ落として、本当に必要で大事なものにエネルギーを注ごうとしているのはいい風潮かもしれません。
ADHD特性がある人の「物の管理」を考える
大人の注意欠如多動症(ADHD)の方々もまた、エネルギーの配分にはちょっと不器用さのある方々といえます。カウンセラーとしてかかわっていると、「そこにこだわるより、何時に寝るからもうこのぐらいにして早めに帰ろうとか、もっとお尻から考えればいいのにな」とか、「人のことにはものすごく親切にエネルギーを注ぐのだけど、もう少しご自分のことにも熱心になれたらバランスが整うのにな」などとおせっかいにも思っています。
こうした感覚は、もちろんご本人にお伝えしていますが、いずれはご本人がそう気づけるといいなと思っています。
エネルギーの配分を支援する上で、やはり物の管理は避けて通れません。
前回までにADHDの方のクローゼットがなかなか片付かない問題の背景を、ADHDの特性から考察してきました。今回はその問題ごとに対処法をご紹介します。
前回ご紹介した、ADHDの方が「クローゼットがぱんぱんなのに今日着ていく服がない」問題は、以下の四つに分類できました。
(1) お片付けの基本の「全ての服を全部出して仕分けする」がつらすぎる
(2) 着ていく服が気分によってコロコロ変わるので前日準備とか無理
(3) どんな服を持っていたか忘れてしまうので組み合わせられない
(4) 気に入った服でもすぐに飽きてしまう
ひとつずつ対策を解説します。私が当事者の方々とひとつずつ実践して編み出した方法です。
(1)お片付けの基本の「全ての服を全部出して仕分けする」がつらすぎる
「全出し」は、やはりADHDの方々には向かないようです。
ハードルが高すぎます。
こうしたときには、ADHDのエンジンを使います。つまり好奇心です。
全出しするときには、過去の散財の歴史をつきつけられ罪悪感を刺激されるのでつらいのですが、「この中からとびきりお気に入りのランキングをつけてみて。1位は?」と好みのものだけ取り出す作戦ならいかがでしょう。ワクワクしますね。
仮に途中でやめてしまっても、部屋は散らかりません。注意したいのは、「好きな服を全部出す」のではないことです。これではおそらく、たくさんの服を外に出す羽目になります。そうではなく、あくまで順位をつけて限定してもらうのです。
(2)着ていく服が気分によってコロコロ変わるので前日準備とか無理
この気分の変わりやすさは、制限すべきものではありません。ADHDの方ならではの魅力とも言えることだからです。
むしろ工夫すべきは、「朝の気分でぱっと着たい服が選べるクローゼットであること」です。これについては、(3)と合わせて対策をとります。
(3)どんな服を持っていたか忘れてしまうので組み合わせられない
ADHDの方の多くは、ぱっと一目で一望できる範囲のものしか覚えていられません。引き出しの中や、かき分けないと見えない位置にセーターやスカーフが入っていたのでは、永遠に順番が回ってこないのです。そして、朝の寝ぼけた頭では、さっとコーディネートが浮かびません。
また、着ていく服がない一因には、「ああこの柄素敵」「このデザインがいい」と一目ぼれの主役服ばかりで、その主役を引き立てるベーシックアイテムがそろっていないことが挙げられます。そろっていないし、どこにそれが収納されているかもわからなくて、見つけきれないということで、朝フリーズしてしまうのです。
おすすめは、ちょっと面倒なのですが、①で取り出したお気に入りの服で、仕事に行くとき、休みの日、外出用などのコーディネートをいく通りも組んでおいてイラストか写真にしておくことです。朝はそのコーディネートから選ぶのです。
もちろん、量を減らしたクローゼットで、扉を開ければ何がどこにあるのかわかるようにしておかなければ意味がありません。ハンガーにかけきれない服でも、引き出しに「セーター」とか「パンツ」のように見出しをつけておけば大丈夫です。全体が見えない代わりにコーディネートイラストが記憶を補助してくれます。
似合う服がわからない人は、パーソナルスタイリストや洋服屋さんの店員さんに相談するといいでしょう。
筆者の作成したコーディネート一覧は、こちらです。
(4)気に入った服でもすぐに飽きてしまう
ここまで手をかけてクローゼットがお気に入りのコーディネートばかりになったとしても、すぐに「やばい。なんにも魅力的に感じない。飽きた」となってしまうでしょう。ここで自分を責めないでください。「そうだよね。飽きるのが私よね」と笑い飛ばしましょう。
なので、最初から高額な服は買わないこともおすすめしています。「明日の自分すらわからない」とおっしゃるADHDの方は多くいます。軽やかに生きられること、自分に正直なことこそ、ADHDの魅力ですから、物に罪悪感を持たないようにするのです。
いかがでしたか?
今年もコラムをお読みくださりありがとうございました。みなさまの暮らしに少しでもお役に立てればうれしいです。
<臨床心理士・中島美鈴>
1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。
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このコラムでご紹介したADHDについてもっとご知りになりたい方は、私の著書「ADHD脳で困ってる私がしあわせになる方法」(主婦の友社)をお読みください。https://books.shufunotomo.co.jp/book/b559355.html
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