内閣府が公表した24年9月の景気ウォッチャー調査(調査期間:9月25日~30日)によると、景気の現状判断DI(季節調整値。以下同)は47.8(前月差▲1.2ポイント)と4ヵ月ぶりに低下、先行き判断DIは49.7(同▲0.6ポイント)とこちらも4ヵ月ぶりの低下となった。現状判断DIは節目の50を下回った状態が続いていることに加え、先行き判断DIも2ヵ月ぶりに50を下回った。

内閣府は基調判断を「景気は、緩やかな回復基調が続いている。先行きについては、価格上昇の影響等を懸念しつつも、緩やかな回復が続くとみている。」とし、7月から据え置いた。

9月分についてコメントを見ると、残暑が厳しいことに加え、消費者の節約志向が根強く、秋物商品の販売が鈍いことや、8月に南海トラフ地震臨時情報が発出されたことを受け、備蓄商品の需要増加の反動による販売減に対するコメントが散見された。また、先行きについては、10月の価格改定で一段と消費が落ち込むことを警戒する声が聞かれた。

節約志向は根強いものの、今後は、実質賃金の回復を背景に、マインドは緩やかに回復に向かうだろう。マインドの回復を背景に個人消費も底打ちが期待される。もっとも、リベンジ消費に一服感がみられる中では、大幅に増加する可能性は低いだろう。

家計動向関連ではサービス関連や小売関連が低下、企業関連では製造業が上昇

現状判断DIの内訳では、家計動向関連(前月差▲2.0ポイント)が低下し、全体を下押しした。他方、企業動向関連(同+0.9ポイント)、雇用関連(同+0.1ポイント)は小幅ながら前月から上昇し、まちまちの結果となった。
家計動向関連の内訳では、飲食関連(前月差+0.6ポイント)が上昇した一方、サービス関連(同▲3.5ポイント)、小売関連(同▲1.8ポイント)、住宅関連(同▲0.5ポイント)が低下した。

サービス関連では、天候不順や台風の通過などによって客足が鈍かったことを指摘する声が目立った。また、小売関連では季節商品の販売が鈍いことのほか、円高によってインバウンド消費の減少を指摘するコメントが散見された。

企業動向関連の内訳では、製造業が前月差+2.5ポイント、非製造業が同▲0.2ポイントとなり、製造業が全体をけん引した。製造業では、価格転嫁が徐々に進む中で、利益率が改善している点や、半導体関連の引き合いが強いとのコメントがみられた。

先行き判断DIの内訳では、家計動向関連(前月差▲0.9ポイント)、企業動向関連(同▲0.4ポイント)が前月から低下した。一方、雇用関連(同+0.8ポイント)は上昇した。

家計動向関連の内訳では、サービス関連(同+1.0ポイント)が前月から上昇した一方、住宅関連(同▲3.0ポイント)、小売関連(同▲1.6ポイント)、飲食関連(同▲1.3ポイント)が低下した。また、企業動向関連の内訳では、製造業が同+0.5ポイント、非製造業が同▲1.5ポイントとなった。

コメント集からは、日銀のタカ派化もハト派化も望まれてないことが示された

景気ウォッチャー調査の「景気判断理由集(現状・先行き)」より、興味深いコメントを下記にピックアップした。

「比較的高額な商品にも動きがあった以前と比べて、今月は購入単価が低い。安近短の商品に流れている。台風等の災害が続いているため旅行マインドが低下していることも影響しているとみている」(現状、東北、旅行代理店〈従業員〉)

「以前から同じ傾向だが、客はその場、そのときに必要な物をしっかり吟味して購入している。ついで買いや衝動買いといった行動もなく、リーズナブルな物でも検討を重ねて購入している。季節の推移で購入単価は上昇するものの、客の堅実な消費行動は継続し、劇的なV字回復等はなく、このままの勢いを維持するものと考えられる」(現状、北関東、百貨店〈営業担当〉)

⇒「安近短」がキーワードとなり、節約志向は継続している模様

「一時的に円高が進んだが、国内の材料調達価格や諸経費には影響がみられない。元の100円近辺から160円台に進んだ円安が、かつてのレートに戻ることは考えられない。為替レートの振れ幅のスケールは大きくなったが、市場もそれに慣れてきたように見受けられる。世界情勢には改善の兆しがみられず、悲観的な見方が優勢な現状では、実業への健全な投資が伸びないと考えている」(現状、南関東、一般レストラン〈経営者〉)

「円安になったり、円高になったり、株安になったり、株高になったりと、短期間の乱高下が激しくなっているため、これからどうなっていくのか予測も付かない」(先行き、中国、自動車備品販売店〈経営者〉)

「世の中は少し円高に向かい、輸入品物価も安定し始めてホッとしている。我が国はまだ金利を大きく引き上げるタイミングではなく、新内閣になってもかじ取りをしっかりと行ってほしい」(現状、東海、その他非製造業[ソフト開発]〈経営者〉)

⇒円高に対する評価はまちまちだが、ボラティリティの高さは嫌気されている

⇒円高に向かったことをポジティブに捉えながらも利上げは望まない声があり、政府・日銀のかじ取りの難しさが示された

⇒為替動向は日銀のタカ派・ハト派のスタンスによって決まる面があると考えると、円高に向かったことに対して「ホッとしている」という意見と、「金利を大きく上げるタイミングではない」という意見は両立しないと考えられるが、それが世論の本音なのだろう

「気温が高く、秋物商材の動きが良くない。例年9月はダウンベストが入荷し、購入客があったが、今年は入荷がなく、客単価も低くなっている」(現状、中国、百貨店〈営業担当〉)

「実質的に秋がなくても冬が寒くなればよいが、暖冬になると単価の高い商品が売れなくなる」(先行き、東海、衣料品専門店〈経営者〉)

⇒温暖化の影響は夏物消費にはポジティブな面があったが、秋冬物に対してはネガティブな影響が予想される

⇒暖冬になるかどうか、注目される

「国内全体としては分からないが、当店は大手ではないので、やはり大手に客を取られるなど、厳しい業況に陥っている。また、最低賃金の上昇により、来月から時給が上がるが、コンビニ業界としてはそろそろフランチャイズの限界かというところまできており、経営はかなり厳しくなる。来年辺りは倒れていくコンビニも増えていくのではないか」(先行き、南関東、コンビニ〈経営者〉)

⇒最低賃金の引き上げを不安視する声が散見された

(※情報提供、記事執筆:大和証券 チーフエコノミスト 末廣徹)

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