10月4日に公表された9月の米雇用統計が強めの結果となり、米労働市場の評価が再びテーマになっている。確かに今回の雇用統計の結果は筆者の想定よりも強かった。しかし、実体経済が底堅い状態で、一般的に景気の遅行指標と言われる失業率が悪化してきたことに違和感があることは何度も指摘してきたことである。

失業率の悪化は実体経済が悪化に向かっている兆候ではなく、加熱し過ぎた労働市場が正常化する動きであるというのが、一貫した筆者の見解である 。
米国では、コロナ後のペントアップ需要の増加によって一時的な人手不足状態に陥ったことから、雇用が過剰になった企業や業種があった可能性が高く、需要と供給の双方が正常化する中で、多少のレイオフが発生することは自然なことである。このような労働市場の調整は一時的な動きである可能性が高く、失業状態が長期化したり、それによって需要が落ちたり、供給能力が低下したりすることはないだろう。

成長率と失業率の関係「オークンの法則」を考えると、失業率が悪化する理由はない

例えば、「成長率が悪化すれば、失業率は上がる(悪化する)」というオークンの法則がある。失業率は中長期的には高齢化など人口動態の影響を受けるため、NAIRU(自然失業率)との差の変化と実質GDP成長率の変化を比較すると、両者の連動性(逆相関)は非常に強い。

「オークンの法則」はコロナ前後で変化

過去の「失業率-NAIRUの前年差」と「実質GDP成長率」の関係からオークンの法則を数式で示すと、下記のような関係があることが分かった(00年1-3月期~24年4-6月期。決定係数は0.746)。

「失業率-NAIRUの前年差」= ▲0.694×「実質GDP成長率」+1.548

この関係から、24年4-6月期の実績について考察する。24年4-6月期の「実質GDP成長率」は前年同期比+3.0%だったことから、オークンの法則から想定される「失業率-NAIRUの前年差」は▲0.53%ポイントとなり、「失業率-NAIRUの前年差」は低下(改善)する方が自然であるという結果となった。
実際には、24年4-6月期に「失業率-NAIRUの前年差」は+0.41%ポイントとなっており、この失業率悪化の動きは不自然(オークンの法則では説明できない)ということになる。
ここで、オークンの法則をコロナ前(00~19年)とコロナ禍以降(20年以降)に分けてみると、コロナ後は「失業率-NAIRUの前年差」と「実質GDP成長率」の感応度(散布図における傾き)が変化していることが分かった(コロナ前が▲0.473、コロナ後が▲0.878)。
つまり、コロナ後は「実質GDP成長率」の変化に対して「失業率-NAIRUの前年差」が大きく動いてきたようである。これは、コロナ禍やコロナ後では雇用主が実体経済の動きに対して過剰にレイオフを行ったり、過剰に採用をしたりしたことを意味している。
このように整理すると、前述したように、足元の失業率の悪化は経済が正常化に向かっている証左と言え、リセッションを心配する必要ないという結論になる。

(※情報提供、記事執筆:大和証券 チーフエコノミスト 末廣徹)

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