(ブルームバーグ):8月最初のわずか3営業日で、200兆円近い時価総額を失なう大暴落を演じた日本株市場。その後も荒い値動きが続くものの、投資家の買い意欲は必ずしも弱まっておらず、市場関係者の間ではこれまでの上昇局面で過剰に積み上がった持ち高の整理が進み、かえって買いやすくなったとの声が聞かれている。

証券会社前で株価ボードを見つめる歩行者

7月30-31日の金融政策決定会合で日本銀行は政策金利を0.25%に引き上げ、植田和男総裁は会見で継続的な利上げの可能性を示唆。このタカ派姿勢は多くの投資家を驚かせたが、金融市場の動揺を受け内田真一副総裁はすぐさま火消しに動いたため、急激に進んだ円高は止まり、株価も持ち直してきている。

米国では8日に発表された新規失業保険申請件数が大きく低下し、直近で高まっていた景気の減速懸念が後退した。加えて、大手テクノロジー企業は人工知能(AI)関連投資の手を緩める気配はなく、7月後半から調整色を強めていた米テクノロジー株も底打ち反転の兆しを見せ始めた。

コモンズ投信の伊井哲朗社長は「経済危機や金融危機があったわけではなく、需給で壊れた市場だ」と分析。株価調整の値幅が大きかったため、至る所で相場にゆがみが生じたものの、2-3カ月で平常に戻ると予想する。

東証株価指数(TOPIX)は7月以降、12%下落しており、下げが大きくなっているのは今年前半に好調だった銀行や商社、半導体株などだ。規模別では同じく前半の主役だった大型株の弱さが目立つ。

大和アセットマネジメントの山本徹チーフストラテジストは「バブルとまでは言わないが、市場は調子に乗り過ぎた」と指摘。投資家がいったんポジションを減らす必要性に迫られた場合、対象となるのが最も多く保有している資産で、「一つはAI・半導体関連であり、もう一つは円安ポジションだ」と述べた。

日本経済が長年にわたるデフレから脱却し、インフレが定着するとの見方に加え、東京証券取引所が企業に対し資本効率やコーポレートガバナンス(企業統治)の改善を求めており、株主還元が強化されるとの期待で今年前半の日本株は世界の主要国でも良好なパフォーマンスを残した。

今回の暴落は、日本株のボラティリティーの高さを世界に対し印象付けたが、同時にバリュエーションは急低下し、長期投資家にとって買いやすくなったことは確かだ。TOPIXの予想株価収益率(PER)は14倍割れと、過去10年の平均を下回った。つい1カ月前は、コロナ禍で異常にバリュエーションが切り上がった時期を除く過去10年のレンジ上限に近く、割安感が顕著となっている。

住友生命保険の村田正行バランスファンド運用部長は、市場関係者の多くは日経平均株価が7月に史上最高値となる4万2000円台に上昇した際、想定以上に上がったとの印象を持っていたのではないかと推察。PERが大きく低下した現在、「買いゾーンと言えば、買いゾーンだ」と語った。

一方、市場が落ち着けば日銀は追加利上げに動く可能性がある半面、米国は利下げ方向にあり、日米金利差の縮小で今後も為替市場で円高が進み、企業業績の先行き懸念が浮上するリスクはある。テクノロジー株の重しになっている米国と中国の半導体を巡る摩擦も、11月に米大統領選を控え今後もくすぶる公算は大きい。

相場のボラティリティーが依然高い点も気がかりだ。恐怖指数と呼ばれ、オプション取引の動向から算出される日経平均ボラティリティー・インデックス(日経VI)は08年のリーマンショック後の最高である85からは低下したが、9日時点では45と過去の平均である22を大きく上回る。これは、今後も相場の変動率が通常の2倍程度と荒い値動きが続くと予測している証左だ。

リーガル・アンド・ジェネラル・インベストメント・マネジメントのストラテジスト、ベン・ベネット氏は今回の暴落を経ても日本株にはまだ多くの買いポジションがたまっているとみており、弱気スタンスを変えるつもりはない。

ベネット氏は「たった数日間激しい相場展開になっただけで、ポジションがニュートラルになるとは考えにくい」とし、「それどころか、下がった局面でさらに買い増しているのではないか」と述べた。

もっとも、オプション市場では日経平均コール(買う権利)の建玉の伸びがプット(売る権利)を上回り、プットの売買代金をコールの代金で割ったプット・コールレシオは8月に入り6年半ぶりの低水準を付けた。これらはいずれも、今後相場が上昇すると読む強気派の多さを表している。

CLSA証券ストラテジストのニコラス・スミス氏は、市場の一部にある日銀の金融引き締め姿勢が株安要因との懸念は「杞憂(きゆう)だ」と一蹴。低金利が円安を生み、消費者の生活防衛につながっていたため、「日銀は正しいことをした」とみる。利上げは日本経済が何十年も続いたデフレのトンネルから抜けようとしている自信の表れで、「歓迎すべきことだ」という。

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