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 東京株式市場で史上最大の乱高下が発生した。8月5日、日経平均株価は取引開始直後からほぼ全面安の展開となり、終値は前週末に比べ4451円安い3万1458円に。終値ベースとしての下落幅は、世界的に株価が大暴落した「ブラックマンデー」の翌日、1987年10月20日に記録した3836円安を上回り、過去最大となった。6日は大幅に値上がりし、上げ幅は終値ベースでの過去最大の上昇幅である1990年10月の2676円を超えて、3217円も上がった。この乱高下に、政府が積極的に推進してきた新NISAでデビューした新たな投資家たちがパニックに陥ったという声もある。『ABEMA Prime』では新NISA担当政務官、エコノミストに正しい現状の把握と今後の見通しを聞いた。

【映像】激しく乱高下する株式市場と投資家の声

■史上最大の乱高下、理由は

 まず、今回の乱高下はなぜ起きたのか。内閣府大臣政務官で新NISA担当の神田潤一氏は「株式の相場で上がったり下がったりは当然ある。こういうショックは10年に1回ぐらいある、それがこのタイミングに来た」と冷静に受け止めた。一因と言われる日銀の金利引き上げについては、7月31日に0.25%へと上がり、植田和男総裁が「年内にさらに追加で利上げする可能性もあり得る」と発言したことで市場が反応。神田氏も「コメントが結果的には少し強すぎたかなと。私も金融庁の大臣政務官の立場ではなくて、個人的なコメントだが」と指摘したが、8月7日には内田真一副総裁が「不安定な状況で利上げすることはない」と発言したことでトーンダウン。市場にも改めて冷静さを求めた格好だ。その上で「政府としては、やはり景気の動向を最優先で見るので、できるだけ慎重にしてほしいというスタンスは常にある。一方で、日銀は物価の動向を見る。物価を指標にするともう少し金利を上げたいのかなと。円安もだいぶ進み、それによって個人消費が弱含んでいるという指摘もあったので、少し金利を上げて円高方向に戻したいというのが、日銀としてはあったのでは」と解説した。

 またエコノミストのエミン・ユルマズ氏は「全く実体経済と関係ない」と断言。「そもそも(円相場で)160円は相当行き過ぎていたので結局、日銀、財務省が介入せざるを得なくなった。ちょうどそのタイミングでアメリカの景気指標が悪化し始めた。日経平均の下げも、全く個人は関係ない。日銀も全く悪くない。今回の動きはまさに外国人投資家のオプション絡み、先物絡みの動きだ」と述べた。

■新NISAを始めた人が狼狽売り?「大きな解約を求める動きはそれほど出ていない」

 国内では政府が推す新NISAをきっかけに投資家デビューした人たちが、今回の乱高下に驚き、狼狽売りして損をしたという声も出ているというが、実際のところはどうか。『2ちゃんねる』の創設者であるひろゆき氏が「新NISAそれ自体は、利益が上がった時に税金を払わなくていいというお得な制度。新NISA自体は長期保有をすると得だという方向にしている。狼狽売りをして、下がった下がった、じゃあもう一回買おうとすると手数料を取られたりするので、むしろ損をする。基本的にNISAは放っておいた方がいい」と語った。

 これには神田氏も同調。「新NISA、NISAは中長期で資産形成をしていくための制度。こういった短期の変動にはあまり一喜一憂せずに、冷静に長期・積立・分散をコツコツ続けていくということが大事。金融庁が先週から今週にかけて、いろいろ証券会社にヒアリングをしてきているが、今のところ大きな解約を求める動きというのはそんなに出てはいない。一方で、下がったのを機に、NISAを始めたいという人たちも結構いるということだ。比較的冷静に対応してもらっているのではないか」とした。新NISAの口座数は今年3月末までに約2300万口座にもなっている。証券会社10社の口座開設数も今年1〜6月は前年比・約2.4倍の244万、買い付け額は約4.1倍の7兆5112億円にもなっているが、今回の乱高下では大きな混乱も、大量の狼狽売りも出ていないのが実情だとした。

 エミン氏は、むしろここが好機と捉えることもできるという。「もう、投資はマストで全員やらなきゃいけない。今回のケースも積立をスタートするなら下げ相場の方がいい。ドルコスト平均法といって毎月同じ額を買うので、下げ相場の方がたくさん株を買える。だから全くそのパニックになる必要もなく、普通にコツコツやっていけば自分がリタイアする頃にはそれなりの資産が出来上がっていると思う」と後押しした。また、「相場というのは、こういう大きい暴落イベントがあると、その後に落ちやすくなる。乱高下で今回ポジションが痛んでいる人がいる。例えばそれこそ個人でも売らないで我慢している人はいるが、これはもう危険だから、買値に戻ったら売ろうという人がいる。だから、その後売られやすくなる。ただ、こういうイベントは基本的にゆるやかに金利を調整していけば起きないはずだ」と述べた。

■株式市場と円相場の相関は エコノミスト「必ずしも相関はない。たまたま」

 今回起きた株式市場の乱高下と、急に円高に振れたこととの相関を語る人も多い。ただこれも、専門家の目からすれば、そうとは言い切れない。エミン氏は「私は本格的な円高局面、例えば民主党政権の時代のような円高になると思わない。構造的に日本とアメリカの経済構造が変わっていて、日本は昔のようにすごく分厚い経常収支、貿易収支を出しているわけでもない。常に対米のデジタル赤字を抱えているわけだから、ものすごく円高に進むとは思えない。ただ、行き過ぎた分、例えば130円や140円前半ぐらいの為替は輸入企業にとっても輸出企業にとってものすごく居心地がいい。為替と株は必ずしも相関関係がない。たまたま一緒だった」と、今後大幅に円高に進む可能性も否定した。

■今後の見通しは「今、日本は景気回復の入り口」

 かつてバブル崩壊といった経験もあるだけに、市場の下落については不安視する声がなくなることもないが、専門家たちから出る言葉は前向きだった。神田氏は「私は内閣府の経済対策や景気対策の担当もしているが、その観点から言えば今、日本は景気回復の入り口に差し掛かっているところ。これから投資が効いてくるし、実質賃金も27カ月ぶりにプラスに転じた。これから先数年かけてじわじわ景気回復の実感が回っていく」とした。またエミン氏も「この10年間で日経平均は4倍にもなっている。その間に上場企業の1株あたりの利益も4倍になっている。実にシンプルで上場企業の売り上げが増えて、利益が増えているから株が上がっている。私は今後も続くと思っている」と期待した。

 ジャーナリストの佐々木俊尚氏は、バブル期から現在に至るまでの日本経済を振り返る。「日本人が乱高下に対して異常にパニックになるのは、バブルの頃に3万8000円ぐらいまで上がった株価がずっと下がり続けて、7000円ぐらいまで下がったのを見ているから。バブルの頃に20歳だった人間が今もう50歳で、メディアの人間だってもう全員が不景気と株価が下がる状況しか知らない。役人だって官僚だって、みんなそれしか知らないから、頭の中で株価はいつ下がるかわからない、永久に下がり続けるかもしれないという恐怖感に包まれている。株価は常に長期的に見れば上がってくるんだという認識を我々はもっと持つべき」と、強い負のイメージが刷り込まれているとした。

 また専門家が明るい手応えを感じている理由についても触れ、「2020年代、それこそ令和に入ってから急に風も変わってきた。要因はいくつかあるが、海外メディアや海外エコノミストの基準で一番大きいのは、実は経営者の世代交代。50代、60代ぐらいの新しい世代の経営者に変わったことによって、ガバナンスや利益の出し方が全然変わり、グローバルスタンダードになったのはすごく大きい」と、国内企業が経営者の世代交代によって確実な力をつけ始めているという見通しも示した。
(『ABEMA Prime』より)

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