(ブルームバーグ):日本銀行が追加金利を引き上げた31日の金融政策決定会合後の記者会見で、植田和男総裁は今後数回の利上げにも前向きな姿勢をにじませた。総裁発言をタカ派と受けとめた市場では、早くも年内追加利上げの見方が浮上している。

日銀が決定した政策金利の水準は0.25%程度。植田総裁は、2年以上にわたって目標の2%を超えているインフレを踏まえると、「実質金利は非常に深いマイナスにある」と何度も強調した。低い実質金利を続けることで「急激な調整を強いられる」先行きリスクに早めに手を打った対応との見解も示した。

その上で、現在の政策金利は景気や物価に景気を過熱させず冷やしもしない中立金利に比べてかなり下の水準にあり、今回の利上げは「そこの範囲での調整だ」と説明。中立金利自体に大幅な不確実性があるが、しばらくはその不確実な領域に入ることはないとの認識を示した。過去の利上げ局面において上限となった「0.5%の壁」も「特に意識していない」と語った。

植田和男日銀総裁

こうした植田総裁の発言は、経済・物価に大きな下振れリスクが生じない限り、当面は粛々と利上げを進め、金融緩和度合いの調整していく考えを示したものといえる。円安が物価に与える影響の強まりを含め、物価の上振れリスクを警戒し、タカ派的な発信を強めている可能性がある。

UBS証券の足立正道チーフエコノミストは総裁発言について「完全にタカ派的だ」とし、次は10月にも利上げがあり得るとみている。日銀が早く金利を上げる意図を示したことで、今後は円高が進行するリスクを意識する必要があると指摘。「企業が値上げできる環境をつぶしてしまう可能性がある。景気に関係なく金利を上げていこうとしており、ますます景気の下振れリスクを高めてしまう」と懸念を示した。

今回の利上げの景気への影響について総裁は、小幅であり、「強いブレーキが景気にかかるとは考えていない」と明言した。一方で、今後の利上げについては「ここまでの利上げの影響についても確認しつつということに当然なる」と説明。力強さを欠く個人消費などが、日銀の見立て通りに持ち直していくのか、まずは夏場の景気とデータが鍵を握る。

農林中金総合研究所の南武志主席研究員も、次の利上げのタイミングは10月と予想している。植田総裁は予想よりも大きな規模と速さでこれまで正常化を進めてきたとしながらも、「問題は本当に物価と景気が日銀がみているように進んでいくかだ。例えばサービス価格などはそこまでまだ強くはない」とみている。

日米金利差も左右

31日の海外市場では日銀の追加利上げを受けた円買いの流れが継続。米連邦公開市場委員会(FOMC)後のパウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長の会見で、早ければ9月にも利下げを行う可能性が示され、一時1ドル=149円61銭と3月以来の水準まで円高が進んだ。日米金利差が引き続き為替相場の動向を左右しそうだ。

パウエル議長、利下げは「9月のFOMC」で選択肢になる可能性も (2)

第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストはリポートで、7月上旬に政府が為替介入に動いた「後詰め」として日銀は利上げをしたとの見方を示す。3月のマイナス金利解除では政策修正が小さ過ぎたため、十分に内外金利差が縮小しなかったと指摘。その上で、「今後、円安が進めば政府と協調して早ければ年内12月頃に利上げをもう一度行う可能性も残る」とみる。

財務省は同日、6月27日-7月29日の為替介入額が5兆5348億円だったと発表した。日米金利差を主因に円安の流れが止まらない中、政府・日本銀行が4-5月に続いて介入を実施していたことが示された。

植田総裁は会見で、円安が物価を想定以上に押し上げる可能性に関して、「重要なリスクと認識して政策判断の一つの理由とした」と説明。一方、為替が今回の利上げの最大の判断材料だったかという質問に対しては「必ずしも最大の要因ではなかった」と答えた。

(第8段落の円相場の動きを差し替えて更新しました)

--取材協力:氏兼敬子酒井大輔.

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