地図データを活用したビジネスが広がっている。デジタル化に伴い、付随する情報の表現方法が紙よりも幅広く、鉄道などの乗り換え案内や気象情報などさまざまな情報と組み合わせることで付加価値を生む。
住宅地図やカーナビゲーション地図データ大手「ゼンリン」(北九州市)は、歩行者の移動支援サービス導入に向けたデータ収集を手掛ける。2000年代初め、目の不自由な人が歩く際の携帯電話の音声案内などを目的として始め、05年に携帯電話用の歩行者ナビゲーションのサービスを始めた。日本でスマートフォンの販売が始まった08年以降になると、カーナビのように検索できる歩行者用地図の注文を受けるようになった。
同社には全国64拠点に住宅地図の情報を集める調査員がおり、歩道の段差、駅や商業施設のエレベーターの位置など情報を集める。既にLINEヤフーの無料地図アプリ「Yahoo!マップ」や、ナビタイムジャパンのアプリ「NAVITIME」のサービスに採用され、最適経路、段差のない経路などとして利用されている。将来的には、多様な交通手段の一括予約などができる次世代移動サービス「MaaS(マース)」アプリの製作会社への情報提供を検討している。
また、全地球測位システム(GPS)アンテナや、1センチ単位で計測できる三次元レーザースキャナー、360度カメラを搭載した車両で、道路の構造や勾配状況、道路標識などの情報を収集し、カーナビゲーション用の地図データや高速道路の自動運転用高精度3D地図データを製作。自動運転用高精度3D地図は一部の自動車メーカーに採用されている。ゼンリンのコーポレートコミュニケーション部IR・SR担当の都丸優樹課長は「地図情報などの活用で社会課題の解決、安全で安心な社会の実現に貢献したい」と話す。
道路地図出版大手「昭文社」のグループ企業「マップル」(東京)は、企業の業務用システムにカーナビ機能を付け加えることができるキットを開発し、16年から提供を始めた。物流の「2024年問題」を念頭に、近年は事業者が効率よく品物を配達できるよう、検索の際に大型貨物自動車など車種や積載量、時間規制の条件を選択できるようにしている。
また、自社の地図ソフトと組み合わせたパソコン用ソフト「通学路安全支援システム」を開発。20年から児童生徒の自宅や通学路の危険箇所を地図上で可視化して共有できるようにし、「こども110番の家」や横断歩道など事件・事故を防ぐための対策を取りやすくした。
同社の宇津井聡史・取締役事業企画本部長は「地図のデジタル化で、地図上にさまざまな情報を載せて新たな価値を生み出せるようになった。今後はオープンデータの活用やスマートフォンの位置情報を活用したオーバーツーリズム対策などに取り組みたい」と話した。
地図検索サイト「MapFan」などを手掛けるジオテクノロジーズ(東京)は20年10月、スマートフォンを使ってポイントをためるポイ活アプリ「トリマ」の提供を始めた。利用者は移動に応じてポイントを受け取ることができ、同社は地図データと利用者から得る移動情報を分析して活用するビジネスを展開。アプリは今年の7月までに1900万回ダウンロードされている。6月からは利用者の投稿によって地図データを更新するアプリ「ジオクエスト」の提供も始めた。同社広報担当の石黒陽子さんは「最新の動態データと約30年間整備してきた地理空間データを掛け合わせて分析し、サステナブルな世界の実現を目指したい」と話した。
立正大の鈴木厚志教授(地理情報科学・地図学)は「デジタル地図の活用は、地図データに自動車など位置情報を加える形で、個人から企業、地方自治体、国、地球レベルへと広がっている。場所の確認や移動のためだった地図は、コンピューターや通信技術の発達により、スマートフォンやタブレット端末で誰でも持ち運べるようになり、取り巻く環境を大きく変えた」と語る。
その上で「地図には山や川、交通、土地利用など目に見えるものを示すことと、人口分布やモノの移動など目に見えないものを示す役割がある。紙からディスプレーへと表現方法は変わったが、正しい位置に正しい情報を載せ、万人に提供する地図作りの根本は変わらない」と指摘した。【下原知広】
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