フリーランスで働きたい人と企業をマッチングしたり、仕事の獲得を支援したりする仲介サービスが浸透してきた。フリーランスは自由に働けるというイメージの一方、実力次第の厳しい世界でもある。フリーランスで働くための覚悟とは。IT人材紹介サービス会社、レバテックのITソリューション事業部長で、一般社団法人「ITフリーランス支援機構」の副理事も務める小池澪奈氏に聞いた。
――レバテックはフリーランスのITエンジニア向けにエージェント(仲介)サービスを展開しています。利用者層に変化はありますか。
◆5~10年ほど前までは30代、40代がメインでしたが、最近では20代の若手や50代以上のシニア層も増えています。20代でフリーランスになった後、家を買うタイミングで正社員に戻り、30代後半で再びフリーランスになるなど、フリーランスと正社員を行き来する人の増加も見られます。
――企業はITフリーランスをどういった時に活用していますか。
◆かつては正社員の補充として検討されていましたが、最近は新規事業を始める時にフリーランスの知見を活用するためチームに組み込むなど、フリーランスを起点に組織構成を考える企業も増えています。
――人材不足で社員募集時の給与が高騰しています。フリーランスの報酬も上がっていますか。
◆当社は正社員の人材紹介も行っていますが、平均で見るとフリーランスの報酬の方が高いです。例えば、レバテックフリーランスの利用者の平均年収は876万円(2022年8月実績。首都圏での案件に参画したウェブ・アプリケーションエンジニアで、週5日稼働の場合)で、現在の月単価は平均70万~80万円。親会社のレバレジーズが創業した05年から10万円ほど上がっている感覚です。
――なぜ報酬が上昇しているのでしょうか。フリーランスのITエンジニアがプロジェクトマネジャーとして月200万円超の報酬をもらう案件もあると聞きます。
◆企業が同じような案件をコンサルタント会社に発注する場合、1人月(1人で1カ月かかる作業量)あたり300万円程度が相場でしょう。
より良い人材を獲得するためには、企業としてもコンサルに発注するのと同等の水準までフリーランスに支払う単価を引き上げていかないといけない。人材不足の中で、そうした動きになっています。現状は、比較的フリーランス側が希望する単価で契約が決まっている印象が強いです。
――同じような仕事でも、下請けでは報酬は上がりにくいのでしょうか。
◆報酬面では、やはりシステムやアプリなどの発注元企業との直接契約が最も高く、その次が元請け、その下請けになるともう少し単価は低くなります。
IT業界全体で見ると4次下請けや5次下請けも多い。数万円ずつマージン(手数料)を抜かれるイメージで、同じ業務をしているのにもらえる報酬が下がるので、相当良くない業界環境だと感じています。
――職場にフリーランスが増えれば、同じ職場の社員の給料にも上昇圧力がかかりますか。
◆フリーランスの報酬を引き上げたら、それに見合う形で「社員の給与も引き上げないといけない」という意識を広めていきたい。報酬差があると、双方が働き続けやすい職場の構築が難しくなる面もあります。企業に入り込んで、フリーランスの報酬に合わせた評価・賃金の制度設計も支援していきたいです。
――フリーランスという働き方に新卒で挑戦するのはまだ壁は高いですか。
◆壁は高いと思います。やはりフリーランスとして継続的に案件を獲得するのは簡単ではなく、新卒の方には「正社員として経験を積んでから、改めて相談に来てほしい」と呼びかけることが多いです。
人材紹介サービスが増え、かつてと比べ圧倒的に案件を獲得しやすくなったとはいえ、ITエンジニアはスキルのトレンド変化がとても早い。案件ごとにどのような経験を積んでいくかなど、自分でキャリアステップを決めていくことが非常に大切です。
――SNS上ではフリーランスや副業は楽に稼げるかのような広告が多いと感じます。
◆何となく自由な働き方をしたい、楽がしたいと考えている人には「そういう世界ではない」と伝えています。これは私たちの使命だと考えています。
今後、フリーランスや副業が増え、企業の活用例も増加していくと、その個人のスキル評価や信頼できる人物だったのかどうかといった情報も蓄積され、流通するようになります。
そうした中で生き残っていくためには、しっかり活躍して評価を上げ、スキルを高めていくことが必要であり、フリーランスになるにはそうした覚悟を持つ必要があります。【聞き手・中島昭浩】
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