有名人がサムネに登場し、デカデカと金儲けの秘技を伝える――そんなFacebook広告を一度は目にしたことがあるだろう。
多くはLINEなどに誘導され、そこから個人情報を抜かれ、あるいは情報商材等を購入するよう勧められる、いわば詐欺広告だ。もちろんサムネに登場する有名人は無関係で、有名人は広告塔に仕立て上げられた被害者にあたる。
このようなFacebookでの有名人なりすまし広告は、だいぶ前から社会問題になっていた。運営会社であるMata社にも批判が高まっていたが、騒ぎの割に、なりすまし広告は減らないな、というのが共通認識だっただろう。
前澤友作氏がMeta社を提訴
ことが動いたのは、この4月上旬だ。自民党デジタル社会推進本部に出席した前澤友作さん(ZOZO創業者)らがその窮状を訴えたためだ。同氏はMeta社を提訴するとし、同時に自民党や行政にもプラットフォーム側の規制をかけるよう働きかけた。
さすがに前澤さんらと政治家の組み合わせが、ある意味“絵”になったためか、この様子は各メディアが一斉に報じ、そして応じるようにMeta社は「著名人になりすました詐欺広告に対する取り組みについて」を発表した。
この声明が、現在さらに騒ぎを大きくしている。同社の声明を見てみよう。
「オンライン詐欺は、インターネットを通じて世界中の人々を標的とする社会全体の脅威」としており、さすがに「詐欺広告をプラットフォーム上からなくすことは、Metaのビジネスにとって必要不可欠なこと」とした。
しかし、こう付け加えた。「世界中の膨大な数の広告を審査することには課題も伴います」「オンライン上の詐欺が今後も存在し続けるなかで、詐欺対策の進展には、産業界そして専門家や関連機関との連携による、社会全体でのアプローチが重要だと考えます」とした。
同社は、ここまで大胆に述べていないが「私たちも気をつけて最善を尽くすけれど、社会全体の問題だよね」という意味だから、これを見た人たちを怒らせたのは当然と言えた。
実際に、前澤さんは、この声明を読みすぐさま対応。Meta社が広告配信事業を継続していいのかについて疑問を呈した。
Meta社の言い分は理解されるか?
ところで、まったく話が変わるようだが、10年以上前から、私は経済アナリストの森永卓郎さんにお世話になっている。私が30代前半のころ、はじめてテレビ出演を果たしたとき、ご一緒したのがすでに巨匠だった森永さんだった。素人同然の私に、親切丁寧にご指導いただき、まったくその恩は返せていない。
先週に某テレビ局で森永さんにご挨拶をした。思うに、私が出会って13年ほど、森永さんはずっと日本の“経済ネタ”の顔であり続けた。有名人の詐欺・なりすまし広告で無断利用される回数は、私の観測範囲では森永さん
たしかに、私も森永さんをサムネに登場させた、“怪しげな”金融広告をFacebookで見たことがある。個人的に存じ上げている私は、もちろん森永さんが、そのようなことをしないと理解するが、森永さんの写真につられてクリックした人もゼロではないだろう。少なくとも、多くなければ、広告の費用対効果がないと判断され、そのような広告が続く必然がない。
そこで森永さんのマネジャーの方に直接聞いてみると、Meta社には何度も詐欺・なりすましの宣伝についてメールを送付していたという(さすがにこれはメールの履歴を確認までしていないものの、私に虚偽を伝える必然性はないだろう)。
しかし同社からは返信がなく、事実上、放置になっていたようだ。
おそらく、ここに同社の言い分の苦しさがあり、さらに第三者も反応している点だろう。
もちろん無数の詐欺広告が存在しているのはわかる。すべてを完全に消去するのは難しかろう。ただし、詐欺広告を出す側からすると、費用対効果がなければならない。とすれば、必然的に有名人の詐欺広告が増えるはずだ。
しかも、今回、本物の有名人が「自分が詐欺広告に使われた」と宣言していた。相当数が本人から同社へ、直接のクレームが届いていたと思われる。上位アカウントだけでも、広告から削除するのは、それほど時間がかからない。しかし、当事者が実感できるほどは、削除されていなかった。
私が興味深いのは、Meta社の社員が、どれだけ一連の詐欺・なりすまし広告にクリックしていたか、だ。社員でなくても、Facebookを利用していれば、その詐欺広告の存在には気づく可能性が高い。そう考えると、おそらく相当数の社員は気づいていて、しかしながら放置していたのではないだろうか。
一般ユーザーとMeta社の社員が、どれだけ反応したかをカイ2乗検定(編補:2つの変数に対する2つの観察が、互いに独立かどうかを検定する)などすれば面白いだろう。同社の社員がわかっていて放置したのだとすれば、内部告発などが期待できるだろう。
Meta社の優位性
ところで、これは私ではなく、私の属する会社なのだが、かつてFacebookで広告を出した。多額ではなかったが、「あ、こんなに簡単に出せるんだ」と驚きがあった。
他社はかなり審査などが細かったり、通った後でも突然に停止されたりする。それに対して、Facebookは利便性が高く、融通が利いたのは事実だ。詐欺以外の、まっとうな広告を出している主がいれば、私と類似の感想を抱いただろう。
小資本でも広告が出せ、さらに自社のフォロワーに近い属性の方々に広告を打てる。これは間違いなくMeta社(当時のFacebook)が起こした革命だった。だって、マーケティングではリストが最重要といわれていたのに、リストすらなく広告が打てたのだから。
しかし、現在ではGoogleや他のプラットフォームがそうであるように、過去と比べてかなり慎重に審査が必要だ。また、Facebookのようなソーシャルメディアプラットフォームは、広告を通じて収益を上げるビジネスモデルがメインだ。
だからあくまでMata社に限らずに一般論でいえば、短期の収益を追えば、やや審査が手薄になる可能性がある。このモデルは適切なフィルタリングや監視の欠如が原因で、詐欺的広告が流通するリスクがある。
「詐欺広告は避けられない」と暗に言っていいのか
ところで、指摘するまでもないが、同社が今回の宣言で「世界中の膨大な数の広告を審査することには課題も伴います」「オンライン上の詐欺が今後も存在し続けるなかで、詐欺対策の進展には、産業界そして専門家や関連機関との連携による、社会全体でのアプローチが重要だと考えます」と述べたのは、当然ながら弁護士や社内部門やら、経
などなど、さまざまな意見があったはずだ(なお、上記は私の経験からの想像)。
それは理解する。しかし、現実的にはMeta社はすぐれたAIを作っており、この程度の詐欺広告が排除できないと告白すればダメージは避けられない(「このAIは優秀ですが、しかし、森永卓郎さんの詐欺広告出稿は見抜けません」と注意書きすれば、それはそれでシュールだとは思うが)。
何よりも、消費者信頼の低下が企業イメージに悪影響を及ぼし、そのブランド価値が損なわれることは望まないだろう。このように考えれば考えるほど、今回のMetaの声明は「悪手」でしかなかったのではないかと、私には思われるのだ。
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