企業が業績の見通しを作成する際にあらかじめ想定した名目の為替レートが、実際の為替レートと大きくかけ離れていることが24日、帝国データバンクの調べで明らかになった。分析した約2400社の2024年度の想定為替レートは平均で140円88銭だった。一方、24日の東京外国為替市場の円相場は午後5時現在、1ドル=159円台後半で取引されるなど20円近くの隔たりがある。同社は「想定を超えるスピードで円安が進んでいる」として、想定と実際のレートのずれから生じる企業への影響を注視している。
調査は5月20~31日、全国2万7104社にインターネットで実施。回答した1万1410社(回答率42・1%)のうち、想定レートを設定している2466社を分析した。
その結果、想定レートは同様の調査をした23年4月(1ドル=127円61銭)より13円27銭安かった。回答の内訳は146~150円が24・7%と最多。156円以上=13・9%▽141~145円=11・4%▽151~155円=11・1%▽136~140円=11・0%――と続き、130円台後半以上を想定する企業が7割を超えた。
円安の影響は業種によりさまざまで、「インバウンド(訪日客)の増加でにぎわいがある」とした損害保険代理業(想定150円)がある一方、「円安による価格の高騰、販売価格の上昇に伴う販売数量の減少で利幅、売上高とも減った」とした家庭用電気機械器具卸(同112円)もあった。
輸出企業と輸入企業の“温度差”も垣間見えた。海外と直接輸入取引のみをしている企業は、直接輸出取引のみをしている企業より4円近く安い145円89銭を想定し、保守的な姿勢がにじむ。規模別では、大企業(144円台)が、中小(141円台)や小規模事業者(138円台)よりも円安を想定する傾向が見られた。
帝国データバンクは同様の調査を17年度から毎年実施。当初は各社の想定と実際のレートがほぼ同じだったが、21年後半以降は想定よりも実際のレートが大きく円安に傾く状態が続く。
同社が5月に実施した関連調査では、企業が適正と考える為替レートは1ドル=110円台~120円台で、こちらも現実との隔たりは大きい。同社情報統括部の窪田剛士主席研究員は「想定以上の円安水準のため、輸出関連以外の多くの企業にとっては輸入物価の上昇を含めて業績の悪化要因になりかねない。為替が急激に変動すると事業の見通しが立てにくくなり、新たな投資にちゅうちょしてしまう可能性がある」と述べ、為替の安定を求めた。
円安「マイナス」54%
一方、東京商工リサーチが6月に実施した調査では、「円安が経営にマイナス」と回答した企業が54・4%に上った。前回22年12月の調査から20円ほど円安・ドル高が進み、「マイナス」との回答は7ポイント増えた。
「円安が経営にプラスかマイナスか」との問いに、「プラス」との回答は3・8%にとどまった。「プラス・マイナス拮抗(きっこう)」は11・5%、「影響はない」は30・2%だった。
「マイナス」と答えた企業を産業別にみると、最多は小売業で66・2%。このうち百貨店や総合スーパーなど「各種商品小売業」に絞ると、回答した全企業が「マイナス」と答えた。
これに卸売業(62・9%)▽農・林・漁・鉱業(61・5%)▽運輸業(58・6%)――と続き、商品や飼料、燃料を輸入に頼っている企業で比率が高かった。
一方、全体で3・8%と少数ながら「プラス」とした業種も。最多は海外へ人や荷物を運ぶ外航海運といった「水運業」(30・0%)。東京商工リサーチは「ドル建て決済のケースが多く、円安になると円換算で売り上げの増加につながるためでは」とみている。円安効果でインバウンドの需要増が見込める「宿泊業」(29・4%)も高かった。
調査は6月3~10日にインターネットで実施。5174社が回答した。【山下貴史、嶋田夕子】
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