Newsweek Japan-YouTube
<日本に進出したTSMCの狙いについて解説したアニメーション動画の内容を一部紹介する>
AIやEVなどに欠かせない半導体の生産・確保に各国がしのぎを削っている。半導体生産の圧倒的シェアを占める台湾積体電路製造(TSMC)の熊本工場が2月24日に始動したが、そこには戦略上どんな狙いがあるのか──。
TSMC取材歴30年の台湾人ジャーナリスト、林宏文(リン・ホンウェン)の著書『tsmc 世界を動かすヒミツ』(CCCメディアハウス)から、その理由を探る。
本記事では、本誌YouTubeチャンネルの動画「TSMCが人材を独占し、日本企業は生き残れなくなる? 高給だけじゃない「熊本工場」の衝撃度【アニメで解説】」の内容をダイジェスト的に紹介する。
◇ ◇ ◇2022年の春に半導体工場の建設が始まって以来、人口4万人ほどの静かな地方都市だった熊本県菊陽町は様変わりした。この工場とは、ソニーとデンソーが共同出資したJASM(ジャパン・アドバンスト・セミコンダクター・マニュファクチャリング)だ。
投資総額約86億ドルのうち、日本政府からの補助金は最大4760億円。日本最先端の半導体工場となるだけでなく、過去最大の半導体投資プロジェクトでもある。
TSMCは中国とアメリカと日本で大型工場を建設しているが、JASMは現時点でTSMCが顧客と共に設立した唯一の合弁会社だ。
日本は安倍政権時からTSMCに対して工場誘致を働きかけてきた。後れを取っている半導体製造技術をキャッチアップさせ、より即時的な現地供給を実現できるようにしたいという期待が日本側にはある。
TSMCの側からすると、JASMへの投資とアメリカへの投資は少し様相が異なっている。
シーシー・ウェイ(魏哲家)CEOは、日本は生産コストが低い場所ではないと言う。その日本に工場を設置するのは「ある顧客をどうしても支えなければならない」からだという。「ある顧客」はTSMCの主要顧客アップルのサプライヤー、つまりソニーのことだ。
ソニーを支えるために日本に工場を構えるのは、アップルを支えるのとイコールなのだ。
21年の日本の1人当たりGDPは3万9800ドル。アメリカは7万ドル以上で、台湾は約3万3000ドルだった。台湾の1人当たりGDPはここ数年で急成長しており、多くの専門家が24年頃には日本に追い付く見通しを立てている。一方で、日本人の給与は少しずつしか上がらない。
熊本県が21年4月に地元企業を対象として行った調査では、大卒エンジニアの平均初任給は19万円。一方、JASMが提示した初任給は大卒が28万円、修士が32万円、博士が36万円と地元水準をはるかに上回っている。
TSMCは日本に対し、熊本の12インチ工場以外にも、横浜と大阪へのIC設計センター、茨城県への3次元IC先端パッケージング研究開発センターの設置と、かなり包括的な投資を行っている。
IC設計分野では、19年から東京大学と先端半導体の技術提携を行っており、20年には横浜に最初のIC設計センターを、22年末には大阪に2つ目のIC設計センターを設立した。
こうしたことから分かる通り、TSMCは日本の顧客とより深いパートナーシップを結ぶだけでなく、設計やパッケージング・検査、より高度なプロセス等を研究開発し、人材を増員するための重要な海外拠点と見なしている。
■より詳しい内容については動画をご覧ください。
※この動画は「TSMCが人材を独占し、日本企業は生き残れなくなる? 高給だけじゃない「熊本工場」の衝撃度」に基づいています。
林 宏文
Lin Hung-Wen
台湾の経済・テクノロジー記者。経済日報記者、週刊誌「今周刊」副編集長などを経て作家に。TSMC取材30年の成果をまとめた『晶片島上的光芒(半導体の島・台湾の輝き)』を昨年7月に上梓(3月22日に日本語訳版『tsmc 世界を動かすヒミツ』がCCCメディアハウス社から刊行)。ほかに『恵普人才学(ヒューレット・パッカードの人材学)』、『商業大鰐SAMSUNG(ビジネスの大物SAMSUNG)』などの著書がある。
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