ニューヨーク証券取引所などが集まる金融街ウォールストリート=米ニューヨーク市で2022年12月、大久保渉撮影

 ニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均が16日の取引時間中に、初めて4万ドルの大台に乗せた。物価上昇(インフレ)が再燃する恐れが和らぎ、米連邦準備制度理事会(FRB)による早期利下げ開始への期待が膨らんだ。ただ、株価上昇がこのまま続くかどうかは見通しにくい。物価動向やFRB幹部の発言をにらみながら、株式市場は神経質な動きが続きそうだ。

 ダウ平均上昇の背景にあるのは、インフレ沈静化への期待だ。15日に発表された4月の米消費者物価指数(CPI)は前年同月比で3・4%上昇した。FRBが掲げる2%の目標に比べればまだまだ高い水準にあるが、3カ月ぶりに伸び率が鈍化したことで、インフレの再加速を警戒していた投資家を安堵(あんど)させた。

 ダウ平均の構成銘柄である小売り大手ウォルマートの決算が市場予想を上回ったことも後押しし、ダウ平均は16日午前の取引で4万ドルの大台に乗せた。その後は利益確定の売りが先行し、終値は前日を下回った。

 ここ数年のダウ平均の動きは激しい。新型コロナウイルスの感染拡大で急落したものの、経済活動の再開に伴い回復し、2022年1月4日の終値で史上最高値(3万6799・65ドル)をつけた。

 だが、同時に進んでいた歴史的なインフレを抑制するため、FRBは22年3月に2年ぶりにゼロ金利政策を解除し、猛烈な勢いで金融引き締めを始めた。23年7月には政策金利を5・25~5・5%に引き上げ、22年ぶりの高水準となった。金融引き締めによる米景気の鈍化を懸念し、ダウ平均は伸び悩んだ。

 流れが大きく変わったのは23年12月、FRBのパウエル議長が12月会合後の記者会見で、利上げ停止と24年中の利下げを示唆したことだ。金融緩和への期待から株式市場に投資資金が一気に流れ込み、ダウ平均は1年11カ月ぶりに史上最高値を更新した。

ダウ工業株30種平均の推移

 人工知能(AI)ブームに乗ったマイクロソフトなどハイテク企業や、AI開発に不可欠な先端半導体を生産するエヌビディアなども人気を集め、ダウ平均など米株価はその後も繰り返し過去最高値を更新。3月28日には終値で3万9807・37ドルをつけ、4万ドル目前まで上昇した。

 日経平均株価も米国株の上昇気流を受け、2月下旬には1989年12月のバブル経済期の最高値を34年ぶりに更新。3月上旬には初めて4万円台をつけた。

 こうした上げ潮ムードに水を差したのが米国でのインフレ再燃懸念だ。4月10日に発表された3月のCPIは事前予測を上回り、「FRBは6月にも利下げを開始する」との市場の期待は吹き飛んだ。投資家の間では「年内利下げは難しい」「追加利上げもあり得る」との悲観論も浮上し、ダウ平均は4月中旬に3万7000ドル台に下落した。

 4月のCPIで過度な悲観論が修正され、ダウ平均は15日終値で3万9908・00ドル、16日には取引時間中に初めて4万ドル台をつけるなど再上昇した形だ。

 問題は今後の動きだ。この2年数カ月の米国株を振り返れば、CPIなどの経済指標や、FRB議長の発言などに大きく左右されていることは明らかだ。一時は4万ドルを突破したダウ平均も、物価情勢次第で急落する懸念はくすぶる。今後も株価が乱高下する不安定な値動きが続く可能性が高い。

 最高値を更新したダウ平均に比べ、日経平均の勢いは陰りが見える。米国の利下げ観測後退や中東情勢の緊迫化で4月にブレーキがかかり、19日には一時1300円を超える大幅下落となった。5月に入っても4万円台を回復することはできず、足踏みが続く。17日は4日ぶりに反落し、前日比132円88銭安の3万8787円38銭で取引を終えた。

 りそなアセットマネジメントの黒瀬浩一チーフストラテジストは「日本株は1~3月に急上昇した反動もあり、調整局面はしばらく続きそうだ」と指摘する。今後については「企業の(25年3月期などの)業績予想が慎重で、株価上昇を阻んでいる。賃上げやこれから実施される定額減税で個人消費が上向き、業績予想が好転すれば、再び上昇に転じるだろう」と予想する。【大久保渉(ワシントン)、成澤隼人】

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