さわかみホールディングス代表としてグループ総帥を務める澤上氏。長期投資家は「絶滅危惧種」(澤上氏)になったと言いつつも啓蒙活動を今も続ける(撮影:梅谷秀司)

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安値の株を丹念に拾い、買ったら10年、20年持つという長期投資スタンスで運用するさわかみ投信。澤上篤人氏が創業した同社は直販を売りとする独立系運用会社の先駆けで、現在の純資産総額は約4400億円に上る。2021年5月以降、さわかみ投信は意見広告を全国紙3紙に計10回掲載。「株式投資は続けよう、されどバブル高からは離れておくべきだ」と警鐘を鳴らした。それからまもなく3年。澤上氏に現在の株高について聞いた。※この記事は4月17日6:00まで無料でお読みいただけます。それ以降は有料会員向けとなります。


――34年ぶりに史上最高値を更新した日経平均株価についてどうみていますか。

完全にバブル高だ。日本を含めた各国中央銀行によるマネーの大量供給で、現在の株価と経済は実体以上に膨らんでいる。つまり張りぼて。

その張りぼてに突き刺さった刃が、近年の世界的なインフレ圧力と金利上昇だ。日銀もマイナス金利政策を解除した。それ自体は当然の流れなのだが、これからが大変だろう。株価はいつ暴落してもおかしくない。

「緩和相場への慣れ」が危ない

――金融緩和相場がついに最終局面を迎えたということですね。ただ、10年前からこの相場の終焉と暴落を予想していましたが、マーケットは逆に動きました。

それは止めようがない(笑)。でも張りぼて経済の行き詰まりが世界のさまざまなところで露わになっている。

お金をばらまけば経済が成長するという経済運営は、金融マーケットを異常に巨大化させた。世界的にその恩恵は一部の人々に集中した反面、多数の人々の低所得化が進んだ。それが賃上げ要求を強めてインフレの遠因にもなっている。

――金融緩和が長く続いたわりには懸念されているような暴落は起きなかったので、今の環境に慣れてしまっています。

それが怖い。かつてなら過剰流動性はインフレをもたらすので危険と言われたが、そのような声もほとんど聞かれない。私は投資の世界に53年身を置いてきた。1970年代のインフレも経験している。

だが今の運用者の多くは世界的に1980年代以降続いてきた上昇相場しか知らない。この40年間、株価と債券価格は上がり、金利は下がるという、きれいな状況にあったので。

世界的な上昇相場の背景には年金マネーの膨張もあった。今後はその力が弱くなっていく。

1960年代終わりから1970年代半ばにかけて、先進国では年金制度が整備された。それで1980年代に年金マネーが一気に膨らみ、株式市場や債券市場へと流れ込んだ。

ただ今後は、少子高齢化によって毎年の現役世代が納める保険料を高齢者世代への給付額が上回る。年金マネーは「純流出」の状況になる。

ゼロ金利が続き経営は弛緩した

――日経平均の高値更新の要因として、資本コストを経営者が意識するようになるなど「企業の変化」が指摘されています。どう思いますか。

一部の会社がすごくよくなっているのは事実。しかし全体としては経営が弛緩している。

その理由は二十数年に及ぶゼロ近傍の金利にある。金利ゼロでいくらでもお金が借りられるなら、どんな人でも経営できる。金利上昇や景気変動があるからこそ、経営は鍛えられる。資本や労働などの再配分も行われる。

経営者を突っつく機関投資家も、運用成績を上げるために株価が上がってほしいので短期志向だ。そういう機関投資家にせっつかれて経営者も短期志向になる。ROE(自己資本利益率)で一律的に8%以上などと数字、数字とやっている。東証なんかも笑っちゃうよね。

――東京証券取引所が2023年3月に出した低PBR(株価純資産倍率)改善要請のことですか。

あんなこと東証が言うものではない。これらを含めてバブルの最終段階と私はみている。

経営者からするとPBR1倍割れは危険な状態。買収の対象になって、いつ乗っ取られるかわからないから。そういう状態をなんとも思わないのであれば、経営者がおかしい。

投資家もパッシブ運用(株式指数などに連動する運用成果を目指す運用手法)が花盛りでマーケットの動きを追いかけるだけ。私ならPBR0.4倍とかで配当利回りが3%あったらご機嫌で買っておく。要するに個別企業を見ていない投資家が多くなった。

東証がPBR改善要求をする必要は本来ない。それが強引に市場をコントロールするのが当たり前になっている。日銀の政策も同様。力任せのせいで本当の価格、金利水準がわからなくなり、そういう市場に乗っかっている企業がやわになった。

さわかみ投信はバブルに乗らず

――さわかみ投信の基準価額(投信の1口当たりの値段)は1999年8月の設定以来の最高値となる4万円超えです。ここまで聞いた話からすると、手放しでは喜べない?

そこは喜べる。さわかみ投信は、バブルの流れには乗らずに実体経済をベースに活動する企業に投資してきた。そのため基準価額(=純資産総額)の中身がけっこういい。

組み入れ比率で現在上位にあるダイキン工業などは株価が安値のうちに買っていた銘柄だ。われわれからするとこの結果は「さもありなん」。ほかのファンドは目先の運用成績を上げようとポジションを増やすが、そういうことはやらない。

日経新聞とかで「さわかみ投信は運用成績が振るわない」などと書かれるが、バブルに乗っていないので当然。無視しろと会社のメンバーには言っている。マーケットが暴落に見舞われる際は、当然割りを食うがその影響は少ないはずだ。

――暴落時にはどの程度のショックが想定されるのでしょうか。

リーマンショック以上の大きな下げになるのでは。実体経済への影響も免れない。財政出動で国債を発行するにしても以前より国の借金は膨れ上がっているし、金利上昇基調に転じた中では利払い費にも影響する。これまでのような政策はそう簡単に打てないだろう。

世界の政府や民間企業の債務残高を国際金融協会(金融システム安定のために主要金融機関が加盟)が集計している。その額は2023年末で310兆ドル。10年前から70兆ドルほど増えた。なお直近の世界GDPは約100兆ドルだ。

70兆ドルはこれまでの低金利をベースに契約された借金と言い換えられる。その金利が上がってくる。借り換えの際にデフォルト(債務不履行)が起きてもおかしくない。しかし暴落はまともな経済へと戻るきっかけになると思う。

今買うことはやめておけ

――足元の株高をみて株式投資を始めようという人もいると思います。

「今はやめておけ」。それが私からのメッセージ。

1980年代のバブル時、ピクテ・ジャパンで日本株を運用していた私は、1988年8月から売りに転じていた。当時は「それでもプロか」と文句を言われた。ただ常識で考えればいい。ゼロ金利などおかしな状態は長く続かないものだ。

さわかみ・あつと 1947年生まれ。愛知県立大学卒業後に入社した松下電器貿易(現パナソニック)を辞め、1971年から運用の世界に。スイス・キャピタル・インターナショナルやピクテなどを経て1996年にさわかみ投資顧問(現さわかみ投信)を設立。2021年の取締役会長退任後も、オーナーとしてさわかみ投信に関わる(撮影:梅谷秀司)

投資家は、買ったものを売って利益を確保してようやく一件落着。メディアなどと違って「上がっている」と喜んでいても意味はない。投資家なら自分の判断でどこかのタイミングで売らないといけない。

しかしその判断をできる投資家が少なくなっている。機関投資家であっても「音楽が鳴り続ける間は踊りを止められない」というのが現状。株価の下落が明確になれば判断できるが、ぎりぎりまで相場を追いかけてしまう。

暴落に見舞われたら「○○ショックで不可抗力でした」と言えばいい。だが、フィデューシャリー・デューティー(受託者責任)を掲げるなら、機関投資家も自分で判断しないといけない。

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