「配達完了」と通知されたのに注文した料理が届いていない――。フードデリバリー(出前)を利用してこんな経験をしたことはないだろうか。新型コロナウイルス禍を契機に需要が拡大し、市場は約2倍に成長。社会インフラの一つとして定着しつつある一方で、トラブルも増えている。記者の「届かなかった体験」を交えて紹介したい。
記者はこれまで何度もフードデリバリーを利用してきたが、11月上旬、初めて注文した料理が届かなかった。自宅前に届けてもらう「置き配」に指定して注文。アプリに料理が到着したことを知らせる通知があったが、添付された画像を見ると我が家ではない場所に置かれている。
トラブルが発生した場合、飲食店から直接出前をとったなら店に連絡をすればよい。だが、記者が利用したのは、ウーバーイーツや出前館といったアプリを通じて注文すると配達員とマッチングされ、料理が届くサービス。飲食店に連絡しても対応してもらえるか定かではない。
まずは配達員に電話をかけたが、コールは鳴っても出てもらえなかったため、アプリ事業者へ連絡を試みた。以前は電話での問い合わせも受けていたようだが、既に廃止になっており、連絡手段はアプリを通じたチャットしかないようだ。
画像の風景手がかりに探し回り
タイムリーな対応をしてもらうのは難しいと考え、連絡は諦めて画像に写った玄関の風景を手掛かりに、近所を30分あまり探し回った。
ようやく料理を探し当て、間違って届けられていた家の人に事情を話して引き取ったのだが、見ず知らずの家を訪ねる行為は、トラブルに発展する可能性もあったかもしれない。
釈然としないまま、こうしたケースの対応を調べようとSNS(ネット交流サービス)を見ると、誤配達に関する投稿があちこちで見つかった。
「頼んだ覚えがない料理が自宅の前に置かれていた」と困惑する投稿者もいた。誤配達された料理が回収されなければ、こうした事態が起こるだろう。投稿者は中身を確認したようで「体調が悪い時に必要な品が入っていて、すぐにほしいだろうに注文した人が気の毒」と気遣っていた。
誤配達の要因として、配達員のミスや、注文者がアプリに登録した配達先の住所や位置を示す「ピン」が間違っていたことのほか、ウーバーイーツジャパンによると「いたずらや悪用」もあるとしている。
出前館に誤配達が発生した際の対応を尋ねると、謝罪した上で、注文者には返金を行い、誤配達された人には商品を回収するか、了承が得られれば廃棄を依頼するという。
ほかのアプリ事業者でも同様の対応が多いようで、SNSでは「食品という性質上、すぐに回収されないと衛生面で懸念がある」「利用者でないため連絡手段がわからず困った」といった不満の声を上げる人もいる。
増える相談件数
全国の消費生活センターなどに寄せられるフードデリバリーについての相談件数(飲食店の従業員が配達するケースを含む)は増加傾向にある。
今年4月~9月末時点の相談件数は307件で前年同期比で約2割多いペースで推移している。目立つのは「料理が届かなかった」という苦情だ。
国民生活センターは、業界団体の一般社団法人「日本フードデリバリーサービス協会」と意見交換の機会を設けているという。センターの担当者は「事業者はサービス改善の余地があることを認識して、トラブル防止に向けアプリの改善などに取り組んでいる」と話す。
出前館では、配達員が稼働する前の研修受講やテストを課しているほか、定期的なフォローも実施しているという。
外食・中食市場情報サービスのサカーナ・ジャパン(東京都港区)の推計によると、2024年のフードデリバリー市場は、23年比7・6%減の7967億円。コロナ禍前の19年(4183億円)の約2倍の水準に成長したが、足もとでは停滞傾向だ。
サカーナ・ジャパンの担当者は「安全に利用できることや、正確に届けるといったことはもはや当然。こうした条件をクリアできない事業者は淘汰(とうた)が進むのではないか」と指摘する。【嶋田夕子】
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