長時間労働の是正や、少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少を見据えて、政府が取り組む働き方改革。
【映像】どうすれば出来る?地方×副業で「年収換算1千万円」
物価の上昇による家計への負担が増える中、副業や兼業といった柔軟な働き方を新たな選択肢として考え始めている人も多いのではないだろうか。
そんな需要に応えるために次々と誕生しているのが、副業人材のマッチングサービス。課題を解決するために人材を募集した企業と、これまでの経験を生かすために応募した方、双方に話を聞いた。
「社内リソースだけではスムーズに新規事業が立ち上がらなかった」
【副業を募集した側】
「ここ10年ほど事業を多角化してきた中で、毎年のように新しいプロダクトやサービス、新規事業を積極的に仕掛けてきた。だが、社内人材のリソースだけではなかなかスムーズに新規事業が立ち上がらなかった」(加和太建設株式会社 柴崎研さん)
「いきなり起業するのはリスクが高いと思っていた」
【副業した側】
「いきなり起業するのはリスクが高いと思っていた。そもそも向いてるのかどうかも知りたくて副業を始めた」(加和太建設で副業 伊賀上祐彰さん)
街づくりに関する様々な事業を展開する静岡県・三島市の加和太建設は長年の経営で積み重ねてきたノウハウやデータを、さらなる会社の発展のために活用したいと考えていた。そんな経営課題を解決するため招き入れたのが、IT企業に勤めるデータ分析のスペシャリスト、伊賀上さんだった。伊賀上さんはフルリモートではあるものの、単なる業務の下請けではなく、社内のプロジェクトをリードしていく立場としてコミットしている。
「データサイエンス自体の需要もわからないところがある。仮に僕が『こういうことができる』と言っても需要がないと食べていくことができないので、その点も知りたかった。会社と別で個人で収入を得られるのは1つ自信になっている。妻と子どもが3人いるので、いきなり(起業などの)チャレンジをするのはリスクが高かった」(伊賀上さん)
起業というリスクの高い選択の前に、本業の収入がある上で自分の力を試すことができる。安心感がある上に、収入アップにもつながったと伊賀上さんは話す。加和太建設では現在、マッチングサービスで出会った4人の副業人材が活躍している。
「こちらのぼやっとした課題・お題に対して具体的に提案し、さらに手も動かして一緒にドキュメントも作ってくれたりする。その上、『来週までにはこういう形で進捗していきましょう』としっかりリードして関わってくれるため、そういう意味でもありがたい存在だ」(加和太建設 柴崎さん)
加和太建設が利用した副業人材のマッチングサービス「チイキズカン」を運営するXLOCALの坂本大典代表が着目するのは、地方企業のポテンシャルだ。
「このレベルの人が来るんだ!」
【繋いだ人】
「地方の経営者は面白い人が多いが“経営チーム”がいないことがほとんどだ。例えば(都心の)スタートアップでは役員クラスにマーケティングや人事の専門家などが当たり前のように配置されているが地方にはほとんどいない。全く違う環境から経営のプロフェッショナルが入ってくると、地方企業の経営レベルが高まって、さらに地方から外貨を稼ぐような産業が生まれるのでは。そう考えてこのサービスを作った」(坂本代表)
チイキズカンが特徴として挙げているのは、年収換算で1000万円の“高収入マッチング”だ。
「感度の高い企業と感度の高い人だけを集めた方が良いマッチングが生まれると考えたのであえて年収1000万円換算の求人にした。実際地方の企業の方々からは『このレベルの人が来るんだ!』と言われる。『こんな人、面接で見たことない!』という人たちと会えることが価値になっている」(坂本代表)
既存のサービスの求人は、お金よりも“知見を活かした社会貢献”というニュアンスが強かったと話す坂本代表。これまで副業人材の受け皿となっていた都心のスタートアップと同じ水準の金額に設定することで、向上心のある企業・人材が集まると考えたのだ。
この人件費の負担を、利用する企業はどう受け止めているのだろうか。
「新しく社員を1人雇った場合のトータルの人件費やコンサルタントに支払う報酬に比べると全然安い。コストパフォーマンスがかなりいいというのが率直な感想」(加和太建設の柴崎さん)
働く側も、違う企業のカルチャーを体感できるメリットがある副業。お互いの成功体験が広がり、強い地方企業の集団ができれば、人口減少時代でも世界と戦える。そんな地方の未来を目指したいと坂本代表は話す。
「そういった経験を積みながら、なおかつ自分が“もう一つの故郷”を持てる感覚も大きい。私も鹿児島と広島で副業をしているのだが、地域に愛着が湧いてきている。定期的に行っていると『ここも地元だったかな』というような。そういった感覚はすごく楽しい」
副業の課題
現在、副業にはどのような課題があるのか?
教育経済学を専門とし、国の規制改革推進会議の委員も務める慶應義塾大学の中室牧子教授は「国が副業を推進しており、4割もの方が副業に関心があるのだが、実際には7%しか副業が出来ていない」と述べ、要因を説明した。
「1つは『労働時間通算』だ。複数の企業で働いている場合、その労働時間を通算して計算するが『(割り増しになる)残業代をどちらの企業がどれだけ払うのか』という問題がある。このルールがめちゃくちゃ複雑で難しいという問題がある」
「もう1つは『競業避止義務』だ。これは、ライバル会社で副業をやってもらっては困る、という規定だ。とはいえライバル会社の定義は難しい。そのため、今、規制改革推進会議の中で競業避止義務にも明確なルールが必要だという議論をしている」
年会費10万円を払って副業する
「ここまではお金を得るための副業」を見てきたがここからは『自分でお金を払って社外でスキルや経験値を積む取り組み』を見ていく。
それが、社会課題に取り組む事業を支援するSVP東京のパートナー制度だ。ここは特定非営利活動法人だが、会社員などをしながら年会費10万円を払ってパートナーになり、ソーシャルベンチャーの組織運営に参画するというもので、いわゆる“プロボノ”のような形だ。
プロボノとは、職業上のスキル・経験を生かして取り組む社会貢献活動のことであるが、なぜお金を払ってまで社外経験を積むのか?
本業は富士通に勤めながらSVP東京のパートナーもしている加藤正義さんは、「社会課題とビジネスパーソンの距離が遠いことに課題を感じ、自分がSVPで体験した経験を会社にも還元する取り組みを展開したかった」「年会費が社会課題の解決に具体的に役立てられていると実感できる点も、自分自身の幸福につながっている」と話している。
この取り組みについて中室教授は「私も市役所や県庁の職員として働きながらNPOで副業をしている方に話を聞いたことがある。彼ら彼女らは意思決定のスピードの違いやステークホルダーとの調整のやり方の違いなどから学んで本業に活かしているという。もちろん民間の方がNPOに関わった場合でも相乗効果は大きいだろう」と称賛した。
(『ABEMAヒルズ』より)
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