業績が大幅に悪化している日産自動車は、販売台数の4割を占める主力市場のアメリカで生産台数を17%削減することがわかった。全世界で9000人の人員削減などリストラ策を打ち出したが、課題は山積みだ。

日産 業績が大幅悪化 工場の社員や周辺の店は

神奈川県横須賀市にある日産の追浜工場。1961年に操業を開始し、現在はリーフやノートなどを生産している。

その工場近くにあるスナック。店のママは60年以上、追浜工場の日産社員を見続けてきた。

「ものすごい良かった。私が追浜に来たときに日産は最高だった。ほとんど日産のお客さんだったのではないか」。以前は追浜のどこのお店でも見かけることが多かった日産社員だが、ここ数年は少なくなっているという。ママは「追浜はやはり日産なのだから、もっと日産が良くなってくれないと困る。何をしたら良くなるの。」と言う。

追浜にある別の飲食店でも常連客達は「飲み屋が少なくなった。日産の人があまりいなくなって…」「昔、日産強かった」「スカイラインが売りだった」「最近日産勝てない」。

日産は11月7日、上半期の決算を発表。最終的な利益が9割以上減った。

日産自動車 内田誠 社長:
このような厳しい状況を迎えていることは、私自身、痛恨の極み。世界13万人以上の従業員とその家族の生活を預かる身として責任を痛感する。

経営の立て直しのため発表されたのが、全世界で9000人のリストラと生産能力の2割削減。製造部の日産の社員は「(会見で)リストラとかあったのでこれ以上、ちょっと不安になるんで周りや家族とかが心配になるから不安にさせないでほしい」。

リストラについて、追浜工場で20年以上勤めていた元社員は…「もう情けないの一言。どうにかしてくれよと。現場で働いてる人は下手をすれば(リストラが)追浜工場という話にもなりかねない状況。モチベーションなんか上がるわけがない」。会見で内田社長はリストラの対象となる具体的な地域については明らかにしなかった。

こうした中、日産がアメリカで現地従業員の6%に当たる数百人規模を削減し、タイでは約1000人を対象に、削減や配置転換を行う方針であることが明らかになった。さらに主力市場のアメリカでは、2025年3月末まで生産台数を前年比で17%減らすとしている。苦境に立たされている背景に、北米や中国での販売不振がある。

日産 業績が大幅悪化 販売不振の背景は

お客様のニーズにお応えする商品をタイムリーに提供できてないことも大きな課題となっている。北米市場ではハイブリッド車が売れ筋だが日産は投入しておらず、奨励金を増やさないと車が売れない状態。また中国では現地のEV電気自動車との競争で苦戦し、販売台数は前期と比べて5%減っている。

さらに11月25日、アメリカのトランプ次期大統領がメキシコからの全ての輸入品に25%の関税を課すと表明。日産はメキシコの工場で作った車をアメリカで多く販売するため、大きな痛手となる。

こうした業績不振について30年以上にわたり自動車産業の調査に携わってきた中西孝樹氏は…

ナカニシ自動車産業リサーチ 中西孝樹 代表アナリスト:
自分たちの良い技術に固執をしてしまって、環境が変わったのに、その次の対策を打たなかった。

日産の業績低迷について中西さんは、「業績が好調だった23年度のうちにやるべきことができなかったことが原因だ」と指摘する。

ナカニシ自動車産業リサーチ 中西孝樹 代表アナリスト:
実は去年の23年度まで業績は好調だった。日産はそういった追い風が吹いているときに、もっと商品開発するとか、必要なハイブリッドを準備することをやらないといけなかったが結果としてルノーとの関係を修復する、いわゆる資本のリバランスみたいなことやっていた。その間に急に外部環境が変わった。それで急にインセンティブ(販売推奨金)を使わないと売れない。アメリカはハイブリッドブームがやってきて、日産の本当に最も大切なローグ(ガソリン車)という主力の車種、日本でいえばエクストレイル。これが全く売れないと。

日産にはe-POWERと呼ばれる独自のハイブリッド車があるが、現在、アメリカでは販売されていない。

ナカニシ自動車産業リサーチ 中西孝樹 代表アナリスト:
日産のハイブリッドの仕組みはすごく特徴的で、ある意味では非常に良いハイブリッドではあっても、グローバルどの地域にでも適しているとは言えない代物だった。

日産のe-POWERは、他社のハイブリッド車に比べて高速走行での燃費性能が劣るため、長距離運転が多いアメリカでは売れない現状がある。

ナカニシ自動車産業リサーチ 中西孝樹 代表アナリスト:
なぜか日産は自分たちの成功体験である「e-POWER」の技術に非常に固執した。これは良い技術だと。これを発展させていかなければいけない。アメリカのマーケットは、これどうだといったら、現地は「こんなハイブリッドではアメリカで売れないからいらない」。アメリカにハイブリッドは入れないというロジック。

今の日産では、社内で問題解決がスムーズに進まないという。

ナカニシ自動車産業リサーチ 中西孝樹 代表アナリスト:
実際に日産の人たちに、個人的に聞くと、みんな心配している。これじゃ俺たちどうなるのだろう。彼がだめだ、これがいけないと、評論家は山のようにいるが、誰1人として会社の問題を解決しようと動く人たちがいない。それが結果として外部環境が悪くなり考えられないぐらいのスピードの業績悪化。そういうものによって初めて全員がじぶんたちのやり方が間違っていた。内田社長が初めて「反省している」という言葉を使ったが、「自分たちで売れる商品がない」。そういう意味において本当に日産が初めて反省して気がついた。将来に向けてちゃんとした改革をやっていこうという機運に今なったところ。

ここからは日産自動車を取材している経済部の梅田記者に話を聞く。

日産が今月行った決算発表で新たな取り組みを発表した。世界での生産能力を20%削減、さらに9000人の人員削減をするとしている。

――さらに内田社長は報酬の半分を自主返納するとしている。他の幹部は内田社長に準じた自主返納で半分はもらうということか。リストラはタイで1000人、アメリカで数百人とか出ているが、まとまった形での発表というのはいつぐらいになりそうか。

TBS経済部 梅田翔太郎 記者:
具体的な時期はまだ明らかになってないが、取材してるスピード感でいうと年度内にはある程度、方向性が固まってくるのではないかと見ている。

――焦点は国内での工場閉鎖や人員削減があるのかということだと思うが、これは入りそうか。

TBS経済部 梅田翔太郎 記者:
日産の幹部に取材をすると、今回のリストラ策については、聖域なく検討を行うというふうに強調していました。なので日本についても当然その検討には入っているんだと思う。

――過去22年度、23年度は決算すごく良く、好調だろうと思っていたら急に利益が9割減とかになってしまったと。なんでこんなことになってしまったのか。

つい最近まで我々はコロナ禍にいた。思い出して欲しいが、あのときは全世界的に半導体の不足に悩まされていて、自動車も思うように作れなかったと。逆に言いかえれば、作った車はどんどん売れていたということだ。コロナが解消されて今というのは本来の意味でのこの車のその良さというところがないと、売れないというところで今のいい車が出せてないっていう状況がダイレクトに効いてきてしまっていると思う。

――社長が「お客様のニーズに合う車がない」と会見で認めてしまうのも、自動車メーカーとしてはどうかと思うが、その新車を数年ごとに投入していかないと自動車メーカーは売れなくなるというのは、我々素人でも知ってることではないか。どうして日産の経営陣は早め早めに新車の開発導入というのを決めてこなかったのか。

TBS経済部 梅田翔太郎 記者:
自動車メーカーは、販売の部隊と技術開発の部隊がいる。その2つの間に市場がどういうニーズがあるのかというのを分析して、どういう車を投入するかを決める商品企画というチームがいるが、その商品企画がやはり市場のニーズ、北米でしたらEVが伸び悩んでいて、ハイブリッドがきているとか市場関係をしっかり把握することができていないというのが一つ。それが経営にも情報がちゃんと届いておらず、正常な判断ができていないのではと思う。

――商品企画は会社の中枢。それと経営陣が立ててしっかり繋がってることが必要なんだが、そういう意味ではそこが緩いということなのか。結局はこの経営の問題なのか、個人的な問題なのか、ガバナンスの問題なのか、問題の核心はどこにあるのか。

TBS経済部 梅田翔太郎 記者:
会社という組織は、取締役会があって、その下に「執行」という組織がいるわけだが、執行が決めたものを取締役会が監督するわけだが、日産の立てた事業の計画は、日産の社内にいない我々メディアやアナリストも「達成可能なのか」と思っていたわけが、それは当然取締役会も思っていたはず。ただ結局その執行が決めた計画がそのまま「GO」されてしまっているので、監督する取締役会・社外取締役も含めて責任は重いだろうなと思う。

――日産はゴーンが来て強力なリーダーシップのもとに外資系的なガバナンスになった。だから、上に立つ人がしっかりしているときにはうまく機能するんだけども、そうでなくなってしまうと、何か意思決定がなかなかできないそんな組織になってたという面もありますかね。

第一生命経済研究所 首席エコノミスト 熊野 英生氏:
外資系の強さもあるのだが、ちょっと今はそれが弱い方に出てしまっているという気はする。

――今後だがどうやって立て直していくんだと。リストラはいいが、その先のシナリオはどうなのか。

TBS経済部 梅田翔太郎 記者:
車というのは世に出るまで、開発期間が4~5年とかかる。今、目に見えて何か売れる車が仕込まれているのかという話も聞こえてこないので、今は本当にできることが限られている。それがこのリストラなんだと。会社の規模を小さくして、何とか耐え忍び、次のチャンスを待つということしかできないという状況で、八方塞りということだろうか。

――アメリカと中国という世界の二大自動車市場で売れる車がないと言ったら、自動車会社は立ち行かなくなる。アメリカでいえば、ハイブリッド車をとにかく投入すれば売れる可能性があるわけだから、大急ぎで例えば「ホンダのハイブリッド」を借りてくるようなことはできないものなのか。

TBS経済部 梅田翔太郎 記者:
日産とホンダと三菱は電動化について協業を進めている最中で、ホンダは日産とは違う方式の「ハイブリッドシステム」を持っているし、三菱も充電できる「プラグインハイブリッド」という技術を持っていて、三菱から日産へ「ローグ」の中で供給するという話は出てきているんですけどもそれ以上、この深い話というのはまだ見えてこなくて、実際この協業の関係というのも、実際どういうふうに進んでいくかというのはまだ不透明な部分が大きい。

――ホンダと日産の間で、今協業はうまくいっているのか。

TBS経済部 梅田翔太郎 記者:
双方に取材をしているが、かみ合ってないのが印象的。ホンダの方から言わせると日産はお金がないということで何か進めようにしてもなかなか踏み出してくれないんだと言う。日産は日産でやはりホンダが、大きな要求をいっぱい投げてきていて、とてものめるような条件ではないというところで、やはりなかなか交渉がかみ合っていないというのが実態としてある。

――熊野さんは今の話聞いてどうですか。

第一生命経済研究所 首席エコノミスト 熊野 英生氏:
自動車業界は厳しい。時価総額に注目すると、日産は今、1.3兆円。トヨタは40兆円で30倍違いがある。ここまで評価が厳しいのかという気はした。

――今後、トランプ政権の完全戦争でさらに苦しくなる展開も予想される。

(BS-TBS『Bizスクエア』 11月30日放送より)

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