全国紙の「毎日新聞」が、突如記事を削除した。人気アイドルグループのSNSアカウントの発信をもとに記事を書いたが、そのアカウントが「なりすまし」だと判明し、誤報のお詫びを掲載することになったのだ。ネットでは「裏取りしないと全国紙の信頼が落ちる」などの声に加え、「こたつ記事」への言及も。
【映像】毎日新聞の“記事削除”おわびページ
こたつ記事とは、自ら取材や調査をせず、テレビ番組やSNSの情報をもとに書かれる記事のこと。「こたつに入りながらでも書ける」と揶揄する意味合いで呼ばれている。「著名人の発言が物議」といった様々なことが伝えられるが、「メディアの怠慢だ」「取材しないなら一般人でも書ける」などの批判も。
『ABEMA Prime』では、その功罪と是非について考えた。
■竹中平蔵氏「PV稼ぎは大衆に媚びている。これはジャーナリズム失格だ」
ネットメディア研究家でコラムニストの城戸譲氏は、毎日新聞のような全国紙がこたつ記事に参入した背景について、「今後、取材網の維持が問題になる予測もあり、収入源増加を求めた可能性」を指摘する。一方で、「PV(ページビュー)稼ぎは消耗戦で後発では厳しい」「かなりの社員を抱える全国紙で、こたつ記事部門が収入の足しになるか疑問」といった課題もあると語る。
東洋経済新報社 会社四季報センター長の山田俊浩氏は、「毎日新聞は新しいものにチャレンジする」と社風を説明する。「2010年創刊のタブロイド紙『MAINICHI RT』は、インターネットで読まれている記事を紹介し、3年ほど続いた。『新しいことにチャレンジしなければ』と思うなかで、今回も他社と組んでデータを拾い、研究しようと思った点では評価できる」。
毎日新聞社 広報ユニットは番組の取材に対し、「読者の多様なニーズに応えられるか検証のため、期間限定で試験的に記事の提供を受け掲載した」と回答。すでに試験期間は終了したが、「本事案含め記事の内容や効果を総合的に判断し終了した」「どのような記事でも真実性の検証は重要。今後も意識を徹底する」と説明している。
しかし、経済学者で慶應大名誉教授の竹中平蔵氏は「ジャーナリズムとメディアは違う」と解く。「毎日新聞は『権力からの独立』と『大衆からの独立』というジャーナリズムの使命を持つ。また、消費税(軽減税率)の恩恵を受け、日刊新聞法で縛られ守られている。PV稼ぎは大衆に媚びるもので、これはジャーナリズム失格だ」。
城戸氏は「毎日新聞の件は、アカウントが“なりすまし”かを確認していなかったことが一番の問題だ」として、「毎日新聞がこたつ記事を始めること自体は、新たな情報収集と発信の形として問題ない」との見方を示す。
山田氏は「硬軟織り交ぜていい」とし、「新聞は文化面にコラムがあるし、ニューヨーク・タイムズでもレシピやクロスワードが人気だったりする。そういうものを含めて、どのようなポートフォリオを作るか。ただ、1つでも偽情報があると全体の信用を失う」と指摘した。
■田村淳「真実もあれば、そうじゃないものもある。後者とは戦ってきた」こたつ記事の功罪と是非
こたつ記事が増加する理由として、城戸氏は、メディア側には「発言ベースで書けるため専門性が低くてOK」「取材などに比べかかるコストが低い」といった点があると説明。また、読者の興味が細分化・分散化する現代では、SNS次第で影響する読者が変わるため、知名度が低くても刺さる場合もあると指摘する。
加えて、「政治家や芸能人が自分のSNSで最初に情報を出すようになった」「ポータルサイトなどがこたつ記事を良しとし、配信収入を得るメディア側もコントロールしづらい」「どれだけ本数を出せるか、ランキング上位に入るかなど、書く側には“ゲーム感覚”の人もいるのでは」との側面も推測した。
タレントの田村淳は、「こたつ記事にも、真実のものとそうでないものがある。後者とはずっと戦ってきた」という。書き手への“逆取材”を通して、「新たな稼ぎ方が生まれている。スピード重視で、とにかくバイトに書かせて、PVとお金を稼ぐ。この仕組みは変わらないはずで、自己防衛としては『こたつ記事っぽいから読まない』と飛ばすしかない」と考えていることを明かす。
フリーアナウンサーの柴田阿弥は「意味合いが異なるタイトルを付けられても、本文まで見てくれる人は少ない。そこのニュアンスとファクトチェックは気を付けてほしい」と呼びかけつつ、「フォロワーの増加や宣伝につながる側面もあるので、記事すべてが悪いとは思っていない」とメリットにも言及。
山田氏が「こたつ記事でも、責任の所在がはっきりしていればコラムになる」「匿名で書くからおかしくなる。署名が大事だ」と触れると、城戸氏は「『オリジナリティは必要なく、誰でも書ける』ということで、編集部で署名を入れるまでもないと判断されるのではないか」と考察した。
竹中氏は改めてジャーナリズムの観点から、「SNSから問題を取り上げる時、エビデンスに基づいて報道すれば問題なく、全く無視しろということではない。しかし、そこですり寄っていくから、みんな新聞を読まなくなり、広告収入も入らなくなる。その悪循環の中にジャーナリズムが巻き込まれている。読む側は、ジャーナリズムか、そうではないメディアかで線を引くべきだ」と述べた。(『ABEMA Prime』より)
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