あなたは「マイナ保険証」に切り替えましたか?多くの人は、これまで通り「健康保険証」を利用しているのではないだろうか?
マイナ保険証の利用率は9月時点で13.87%と低調だからだ。しかし、12月2日には、現行の健康保険証の発行は終了し、原則マイナンバーカードで保険証を利用する仕組みに移行する。
この現状に待ったをかける発言をしていたのが石破茂総理だ。正確には自民党総裁選当時の石破候補だ。時期には大きな意味がある。総裁候補の時は「期限が来ても納得しない人がいっぱいいれば、併用も選択肢として当然だ」と、当時の政府方針に異を唱えたからだ。納得と共感がモットーの石破さんらしい発言だった。
この言葉の裏には、医療機関などから数々の問題点の指摘があったことは容易に想像がつく。愛知県の保険医協会を取材すると、マイナ保険証一本化は拙速すぎるのではないか?そんな印象を持たずにはいられなかった。
認証エラーで“健康保険証”を自宅まで取りに…
保険医協会は開業医らが所属している団体で愛知県だけでも9000人以上、全国では10万人を超える会員によって構成されている。開業医にとって、健康保険証の利用は日常であり、そこでのトラブルは死活問題。しかし、そのトラブルの報告が全国の開業医から多数報告されているというのだ。
今年5月からマイナ保険証について全国保険医団体連合会がアンケート調査をしたところ、実に7割の医療機関において、オンラインでの資格確認でトラブルなどがあったという。最も多いのがマイナ保険証を読み込むカードリーダーで「●」が出る不具合だ。
例えば、名字が常用漢字ではない「髙」橋さんの場合は、「●橋」と表記されるし、カードリーダーの接続、認証エラーなどもあったようだ。ちなみに「●橋」となれば、入力を手作業でやり直す手間がうまれる。
また、カードリーダーは立ち上がりに10分以上かかることもあるという。名古屋市内のクリニックを訪れると、こうしたトラブルによって窓口で受付がストップし、患者を30分近く待たせてしまったことも。また、認証エラーが出れば、保険証を自宅まで取りに行ってもらったりもしたそうだ。
さらには、本人確認に時間がとられることもあり、窓口の機能はパンクしたこともあったと振り返っていた。
保険医協会「マイナ保険証一本化への移行時期は拙速」
アンケートは保険証が廃止された場合の受付業務はどうなるのか?にも触れているが、6割が「今も混乱しており、廃止後は受付業務に忙殺される」と答え、5割弱が「診察の待ち時間が長くなる」と不安を抱いているのだ。
愛知県保険医協会の荻野高敏理事長は、こうした現場の声がある以上は「マイナ保険証一本化への移行時期は拙速」と語気を荒げた。何もマイナ保険証へ反対しているのではない。
環境整備がされていないのに変更しても、困るのは現場の医療機関であり、利用する患者であることを誰よりも知っているからなのだろう。
そういえば、前述した石破候補のマイナ保険証一本化への異論は、総理になってから封印され、デジタル担当大臣や厚労大臣によって、当初通りの方針が打ち出された。トーンダウンしたマイナ保険証一本化の見直し。
総理になってもやりたいことと、やれることは違うようで「国はどうしてもマイナンバーカードへ切り替えたい」そんな強い意志が透けて見える。マイナポイントのお得感を活用したり、保険証という国民の健康に直結する必需品を使ったりして、マイナカードに移行させたいのだ。
でも、そもそもマイナンバーカードは強制ではなく任意だったはずた。それなのに、マイナ保険証への切り替えを促す手法は、半ば強制にも感じるのは私だけだろうか?
まずは“メリット”を国民に提示すべきでは
制度などが変わる時、必ず何らかのハレーションは起きることは歴史からも明らかだ。ただ、もしも制度や仕組みを変えた方が利便性が増すなどのメリットを感じれば、人は自ずとそれを選択していくはずだ。国は、期限を切って制度を変えるのでなく、マイナ保険証がいかに便利でメリットがあるかを国民に提示することに力を注ぐべきた。
今や9割以上の利用率を誇る高速道路のETCカード、スタートは2001年だった。しかし、20年以上経過してもETCレーン以外に一般レーンを設けている。そう、ETCカードへの移行も、未だに二刀流なのだ。ただ、ETCの利便性を感じた国民が利用率を徐々に押し上げてきた。愛知県保険医協会の荻野理事長も「保険証も移行するには、ある程度の時間が必要だ」と力説している。
もっと時間をかけて、丁寧に国民の理解を求めていくことが必要なのではないだろうか?その理解には、もちろん「納得」と「共感」が含まれるのは言うまでもない。
衆院選でも争点の一つになった「マイナ保険証一本化」。この声を拾ってくれるのは、石破総理なのか?それとも野党なのか?永田町で政治の枠組みを模索している
間に、期限を迎えそうだ。
取材:CBCテレビ解説委員 大石邦彦
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