北海道内でも地方の医師不足が深刻です。問題の解決につながるのでしょうか。地方で医療をつなぐ「出張医」と支援の輪の現場を見つめます。
稚内空港に降り立った1人の医師。札幌市の三樹会泌尿器科病院の佐藤嘉一(さとう・よしかず)理事長です。
向かった先は…。人口3500人。酪農のマチ、北海道豊富町です。
佐藤理事長は、このマチの診療所に通う、いわゆる「出張医」です。
「出張医」とは…都市部の医療機関の医師が、地方の医療機関に出向くもので、医療体制が十分ではない地方への支援が主な目的です。
広い北海道の地域医療では、欠かせない存在になっています。
3年前に泌尿器科が新設されるまで、患者はおよそ100キロ離れた名寄市の病院や、稚内市の病院まで通う必要がありました。
三樹会泌尿器科病院 佐藤嘉一 理事長
「おしっこ近いですか?」
豊富町の男性(75)
「近い。それだけなんだけど…」
三樹会泌尿器科病院 佐藤嘉一 理事長
「町の検診で前立腺がんの検査しましたけど、そちらは大丈夫ですね」
泌尿器科の常勤医を確保できなかったマチは、札幌市の病院に依頼し、月に1度だけ、佐藤理事長自らによる「出張医」の派遣を受けています。
豊富町の男性(72)
「稚内(の病院)は混んで混んですごい。こうやって(医師が)来てくれるから、だから元気で働ける」
北海道内の医師の数はおよそ1万5000人。しかしその半数あまり、8000人以上が札幌市に一極集中している一方で、宗谷地方にはおよそ100人。
0.6%ほどしか医師がいないのです。
医療設備や報酬などの待遇面で劣る地方で、医師を確保することが難しく、「出張医」に頼らざるを得ない現状があります。
ドクターヘリで救急患者を受け入れる北海道東部の町立中標津病院です。
根室地域を支える中核病院のここでさえも、医師の確保に四苦八苦しています。
町立中標津病院 走出利政 事務長
「1か月で延べ110人程度の出張医で診療体制をまかなっている。当院だと(大学)医局の応援があるので、診療体制をまかなうことできているが、これを自治体独自でやると思うと相当ハードルが高くなる」
中標津病院ではことし2月、1人しかいなかった泌尿器科の医師が一身上の都合で退職。患者が受診できない事態に陥りました。
このままでは地域医療の崩壊を招きかねないと、「出張医」の派遣に名乗りを上げたのが、豊富町に「出張医」を派遣している札幌市の三樹会泌尿器科病院でした。
三樹会泌尿器科病院 佐藤嘉一 理事長
「マンパワーがそんなにないが、何とか広い北海道の距離の壁をなくしたい。われわれも北海道で最初の泌尿器科の専門病院としてつくられた病院ですから」
決して自身の病院の医師に余裕があるとは言えない中、支援に踏み切ることができたのは、ある会社が動き出したからでした。
札幌市の丘珠空港を拠点に、道内外9路線を持つ北海道エアシステムです。
中標津便の新規就航をきっかけに、中標津病院に向かう泌尿器科医の搭乗料金を何度でも無料にする「地域医療パスポート」の運用を4月から始めました。
北海道エアシステム 武村栄治 社長
「陸路で行くと6時間、離島は9時間が当たり前の世界を、1時間で結んでいるので、その時間価値を提供するのがわれわれの仕事だと思っている。北海道民の翼としてできることは地域になるべく入っていって、協力していく」
中標津病院では昨年度、経営に要した事業費はおよそ47億円。
当然、患者からの受診料では賄いきれず、マチから10億円以上の繰入金で補填している赤字経営が続きます。
中標津町の西村穣町長は、受け入れ側にも大きなメリットがあるといいます。
中標津町 西村穣 町長
「町の持ち出しも相当額がありますので、出張費が少しでも減るのは、病院の財政にとってもうれしい話」
この日、「地域医療パスポート」を利用して、中標津町に向かうのは「出張医」の安田満(やすだ・みつる)医師です。
出張医 安田満 医師
「日帰りでは診察時間が確保できない。出張という形で行かないとちょっと難しい。マイナー系と呼ばれる診療科だと、どうしても地方へ医師を派遣するのが難しくなってくるので」
安田医師の診療は2週間に1度。病院に到着したこの日の午後は34人もの予約がありました。昼食もとらずに、患者のカルテを読み込むほどです。
出張医 安田満 医師
「やはり限られた時間内にたくさんの患者をこなさなくてはならないので、あらかじめデータチェックをしておくとスムーズにできるので早めに来てやっている」
地域医療でうまれた支援の輪を北海道内全体に広げることがいま、求められています。
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