サッカーJ3アスルクラロ沼津のMF伊東輝悦選手が、今季限りでの引退を発表しました。そのプレースタイルから “テルドーナ”と呼ばれ、1996年アトランタ五輪では、優勝候補筆頭のブラジル相手にゴールを挙げ、“マイアミの奇跡”を起こした立役者として知られています。
プロ選手としてのスタートを地元清水エスパルスを切ると、ヴァンフォーレ甲府、長野パルセイロ、ブラウブリッツ秋田を経て、2017シーズンから再び地元静岡のアスルクラロ沼津でプレー。Jリーグ通算の出場試合数は560を数えます。さらに、日本代表としてワールドカップフランス大会のメンバー入りも果たしました。
現在50歳。Jリーガー現役最年長プレーヤーがついにスパイクを脱ぎます。10月31日に行われた引退会見の模様を、“清水が生んだサッカーの申し子”のラストメッセージをノーカットでお送りします。
伊東輝悦選手:すげえめっちゃ人いる(笑)今シーズンを持ちまして、引退します。今年50になって、本当50歳までプレーできたことが本当に幸せだと、それはつくづく思いまして、でも、ただ、いろんな方々に支えられて、本当運が良かったなと思います。ひと月、ひと月半まだシーズンがあるんで、最後まで全力で走り、抜けたいなと思います。
Q.このタイミングで今回引退を決めた理由は。
伊東選手:タイミングというか、僕自身はもう年明けて、今シーズンの最初の頃に考えてたんで、まずは、いつを(引退することを)オープンにするかというところだったんですけど、まずはチームの状況とかいろいろあったんで、結果、今のタイミングになったっていうところですかね。
そんなおじさんがいてもいいんじゃねぇか
Q.50歳という節目が引退を考えるきっかけになったのか。
伊東選手:それも一つはあるかな。ただ、40超えて、41、42、43となったときに、その時点でも辞められるっていうか、タイミングはあったと思うんですけど、ただ、体は当然若い頃に比べたら、量は落ちたかもしれないですけど、クオリティというか、経験とかを生かしながらできるかなと思ったりして、そのときに、「50までプレーできたら自分の中で面白いな」っていうか、「そんなおじさんがいても、いいんじゃねぇかな」みたいのが思いはありましたね。その50歳に関しては。
Q.引退を決断してまずは誰に伝えたか。
伊東選手:そうっすね。家族っすね。やっぱ。
Q.チームメイトに伝えた時の反応は。
伊東選手:どうだったんだろうなぁ。もうびっくりしている選手もいたと思うし、中には「やっと辞めるんだ」って思った人もいるかもしれないけど(笑)どうでしょうね。
Q.今後の進路、決めていることは。
伊東選手:いや、まったく決めてないです。その辺はこれからまた考えたいなと思ってます。
Q.続けられた理由は。
伊東選手:僕も基本的にサッカーをプレーするのが好きで、プレーして楽しかった。きょうも午前中トレーニングしましたけど、それは今でもそんなに変わらないけど、精神的にはそんなにきつくないとやっぱり体が動かない方が、特に今年の夏はもう地獄でした。本当に暑くてしんどすぎましたね。
Q.公式戦にあまり出ていなくても変わらない。
伊東選手:変わらなかったです。
Q.中山雅史監督のトレーニングは相当きついといわれていたが、それをついていくのが苦じゃなかったか。
伊東選手:いや、苦ですよ(笑)もうしんどいだけですよ。でも、若い選手とああだ、こうだ言いながらプレーするのは、すごい楽しかったです。
Q.家族にはいつ引退を伝えたか。
伊東選手:今週日曜日かな。
Q.奥様は何と言っていたか。
伊東選手:お疲れ様って感じでしたね。ただ、息子はちょっとびっくりしました。「え?」という感じでした。いま、高2ですけど、物心がついたときからもうサッカー選手でいて、それがもう10数年、それが多分日常だったんで、だからだと思うんですけど。それで妻が「まだやって欲しいの?」なんて聞いて、「いや、50だとオレ」といったら、「それもそうだな」みたいな感じでした。
Q.以前、しんどさが楽しさを凌駕したら、もう体が動かないと思うとおっしゃっていたが、実際にそう思われたのかというところと、もしそうしたらいつ凌駕されたか。
伊東選手:さっきも言ったけど、今年の夏、本当にきつくて、本当、体動かねなぁとは思ったんですよね。ただ、いまちょっと涼しくなってきたら、若干体が動くなって思ってきているから、なんか寂しいなって思うとこあるんですけど、でも、しんどいっすね。
Q.引退することについて監督は何かおっしゃっていたか。
伊東選手:それが僕、言ってないんすよ。後で謝ってこないといけない。強化の人と、もうなんか伝わっていると思ったから、会見のあとでいいかな、なんて思ってたら、なんか、まだあんまりしっかり伝わってなくて、なんかふんわりしちゃってたんで、ちょっとゴンさんに申し訳ないなと思って、ちょっとあした謝りに行きます。
Q.今シーズン残りあるが、どのような形でチームに貢献されていくか。
伊東選手:今までと変わらずにしっかりトレーニングして、っていうとこだけですね。
「マイアミの奇跡」は4年に1回ぐらいなると…
Q.現役生活の中で印象に残ってる試合やプレーは。
伊東選手:これが、というのはないです。31年、32年経ってるんで昔のことはもう忘れているところもあるし、今なんだったら今が一番楽しいなと思ってるかもしれないですね。記憶が今一番鮮明だから。
Q.昇格を目指しているアスルクラロ沼津がどんなふうになってほしいとか、後輩に伝えたいこととかはあるか。
伊東選手:あと残り4試合で昇格がまだ可能性は十分にある。ただ、チャンスはそんなたくさん、この先あるかどうかわからないんで、今あるチャンスをつかみ取ってほしいなということ。本当に若い選手がピッチの上で躍動している姿を僕は見たいなっていうこと。一番いいのは、一緒に最後に喜べたらいいなということですかね。
Q.中山監督はどんな監督だったか。
伊東選手:熱いっていうか、情熱的ですよね。
Q.これまで(監督とは)どんな話をして、50歳までプレーしてきたか。
伊東選手:そんな話はしてないですね。多分、中山さんも気を使ってくれると思うし、また選手と監督の立場でいろいろ気をつかったもんで、今回こうやってオープンだったんで、今さっきの話じゃないですけど、あしたはちょっと気兼ねなく何かしゃべれるかなと。
Q.5年後、10年後、アスルクラロがどうなっていてほしいか。
伊東選手:そういう先のこともわからないんで、ただ、地域の皆様に愛されるクラブにあってほしいし、一番早いのは今、今回のチャンスをものにできれば、より一体感が増すというか、より東部地域が盛り上がると思うし、そのきっかけが今シーズンだったらいいなと思います。
Q.昔のことは忘れているとおっしゃっていたが、多くの国民がアトランタオリンピックのことは…
伊東選手:はい。それは覚えてます(笑)
Q.ブラジル戦のゴールはどういうものだったか。
伊東選手:本当ただ、あれはいい思い出です。あれがあったことで、いろんな方に声かけられたりとか、今でも4年に1回ぐらいなると、みんな思い出してくれるんで、声かけてくれるんで。
Q.プレーするのが楽しいってことが長くキャリアを続けられてきた一番の原動力だったか。
伊東選手:はい。
「自分らしさがなかった」日本代表時代
Q.プロになった頃と現在でキャリアを重ねてきた中で、サッカーの捉え方とか面白さ、奥深さなどに何か変化あったか。
伊東選手:若い頃は、ミスしちゃいけないじゃないけど、言葉が正しいかどうかわからないけど、完璧にプレーしようとみたいなのはちょっと思っていたところがあるんですけど。やっぱりサッカーはそういうもんじゃない、完璧が何かといわれても、それもわからないし、ただ、そこを経てから、何か自分らしくありたいな、自分のできることで精一杯やりたいなという変化はありました。そういう変化もあった方がいいから、長くプレーできたかなとは思っている。
精神状態があんまり整ってなかったのは、日本代表入っている頃は自分をよく見せたい、大きく見せたいじゃないですけど、ミスしたらいけない、うまく見せようと、そんなところがちょっと強く働きすぎて、自分らしさがちょっとなかったなっていうのは、そのとき思って、それからは、自分らしく、自分ができることを精一杯やろうと思ってやりました。そしたら、こんなんなっちゃいました(笑)
Q.沼津がJリーグに参入したタイミングで加入して、昇格争いをするところまできた。
伊東選手:入ったときはまだライセンスもなくて、今でもライセンスも取りましたし、実際、順位があれば、上がれる状況になりましたし、選手たちも、ゴンさんになってから去年、今年と間違いなくクオリティは上がっていると思うし、タフになっていると思うし、一歩ずつではあるとは思うんすけど、成長がしてるんじゃないかなと思うんでそのまま歩みを続けてほしいなと思います。
Q.クラブを支えてきたファン、サポーターへのメッセージを
伊東選手:もうこれからもサッカーを楽しみましょうということ。もうそれに尽きます。
Q.沼津というクラブに伊東選手が残せたのは
伊東選手:自分ではわからない。周りの方がどう思ってくれたか、それを聞きたいぐらいです(笑)
Q.若い選手に聞けば、「テルさんがやってるから自分も頑張らないと」そういう存在として見ている。
伊東選手:そう思ってくれたらうれしいですね。
Q.こんなおじさんがいても面白いなと言っていたが。
伊東選手:なれてよかったです。妻や家族には、ちょっといろいろ負担をかけたかもしれないですけども、運もよく、支えてもらえて、もう自由にきたので、個人としてはもう言うことないです。もう十分過ぎるほどプレーした方と思います。
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