熊本県の八代(やつしろ)市に「鮒取り神事(ふなとりしんじ)」という800年以上の歴史を持つ祭りがあります。

地域の人たちが「奇祭」というこの祭りの舞台裏を取材しました。

きょう(4月29日)行われた鮒取り神事。新型コロナウイルスの影響で実施が見送られていたため、今回が5年ぶりです。

池のなかのフナを見物客に献上する意味で、男たちが投げて池の外にあげるのです。

五穀豊穣を願うこの祭りの実行委員会は・・・

鮒取り神事実行委員会 森雅臣さん(68) 
「奇祭ですよ!こんなぶっちゃけた祭りは他にはないと思う」

この神事は、その昔、暴徒の鎮圧のため石川宿禰(いしかわのすくね)が九州に立ち寄った時、天気が悪く、海の幸が手に入らなかったため地元の若者たちが池で捕まえたフナを献上したという故事に由来しています。

森さん「感謝の思いが自然の中での営みに溶け込んで大事にされてきている。何百年と続く歴史の重みがそこにあると思います」

ただの奇祭ではない

祭りの始まり、意義について民俗学が専門の熊本大学の山下裕作(やました ゆうさく)教授に聞きました。

民俗学が専門 熊本大学文学部 山下裕作教授(58)
「春に水路をきれいにして水源地である池もきれいにして、水の通りを良くする。 これから田仕事が始まる。頑張らないといけない。そのお祝い事と神様に豊作を祈るということ。いろいろな意味があったと思う」

鮒取り神事について山下教授はただの奇祭ではないと強調します。

山下教授「日本人が普段食べていたもの、そういったものを神事に持ち込んで共に祝うというのは、奇祭というよりもこの地域の人たちが一生懸命担っていた農業の一環の行事、農業をやる人たちの喜び」

特に、干拓地が多い八代では川魚、フナとの結びつきは強く、それが伝統として現代まで脈々と受け継がれたと言われています。

祭りに向けてフナ捕獲が勝負

八代市鏡町の印鑰(いんにゃく)神社の近くにあるのが、鮒取り神事が行われる池です。

普段、ここには祭りの主役とも言えるフナはいません。そこで、祭りに向け町の有志が近所の用水路で捕まえてくるのです。

記者が挑戦しますが・・・

記者「全然入ってない…」

しかし地元の人は5年ぶりでも慣れた様子です。

町の有志「待って!(フナが)当たるのは分かるけん。そしたら上げる」「おぉ!これはよかフナ!」

記者「楽しくなってきた」

この日だけで、200匹ほどのフナやコイを捕まえました。

森さん「フナ捕獲が勝負なんです」

捕まえたフナを会場の池に放ち、祭りに向けて準備は万端です。

参加者はふんどしに着替え いよいよ「鮒取り神事」本番!

そして迎えたきょう(4月29日)・・・あいにくの雨です。

鮒取り神事が行われる池では水を抜く作業が進められていました。

坂本敬行さん「水が多いとフナが、なかなかとれないので、最後の仕上げで水を抜いている。あいにくの天気で抜いても抜いても水かさが戻ってくる」

参加者はふんどしに着替え気持ちを高めます。

参加者「今から盛り上がるところ。気合いは入っています。一応鍛えてきたので、この日のために」

その頃、神社では、神輿の前で舞いが奉納され神幸行列が出発しました。

池の中に入る男たちは、身体を清めるため酒を口にします。

そして雨があがり鮒取り神事が始まりました。

池に飛び込んだ男たちは、中から泥水を飛ばします。この泥やフナに触るとその年は無病息災で過ごせると言われています。泥だらけの男たちが見物する人を追いかけます。

池のフナを渡された男の子は・・・

男の子「うれしいです」


女の子は・・・泥をつけられ泣き顔です。嫌だったようです。

男たちが池に飛び込んで約30分で鮒取り神事のハイライトは終了しました。

地元の人「良かったです。良かった本当に」

地元の人「楽しいです。嬉しいです5年ぶりにあって」

地元の人「濡れてもいい、泥がついてもいい服を着たら絶対楽しいと思う」

八代市鏡町の「鮒取り神事」は今年もその伝統をつなぎました。

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