10月27日に投開票された衆議院議員の総選挙。熊本県の四つの小選挙区では、自民前職の4人が他の候補の比例復活も許さず、圧倒的な勝利となりました。一方で比例代表での得票では前回衆院選(2021年)と比べて自民が約8万票減らすなど、足下では違った動きが起きていました。
熊本の有権者が政治に下した判断とは。小選挙区と比例代表、それぞれの傾向を、専門家の意見と過去のデータから考えます。

なぜ?自民逆風は熊本に吹かず <小選挙区>

27日投開票の総選挙では、熊本の四つの選挙区はいずれも3人の争いとなり、1区・木原稔氏、2区・西野太亮氏、3区・坂本哲志氏、4区・金子恭之氏の自民前職4人が、55%~69%の得票を得て当選。2位の候補の得票は18%~32%に過ぎず、2021年の前回選に続き、野党の比例復活も許さず自民の完勝でした。

「政治とカネ」問題による自民党逆風の中で、なぜ、熊本は「保守王国」の特徴が色濃く表れたのか。熊本大学で政治学が専門の伊藤洋典(いとう ひろのり)教授に、見解を聞きました。

※「選挙の日2024 熊本選挙区 最新情報」(2024年10月27日放送)のスタジオトークより

熊本大学​ 伊藤洋典教授「全国的には裏金問題など自民党に対する逆風が吹いたと言われていたが、熊本県の場合は自民党系の候補者に対象となる議員の名前がなかったので、あまり大きな逆風は感じにくかったと思う。一方で、熊本はTSMCの進出などの明るい展望がある。(進出に伴う)様々な地域課題はあるが、明るい展望の方に(有権者の)目が行ったという印象」

後生川凜アナウンサー「その分、野党にとっては難しい戦いだったということでしょうか」

伊藤教授「野党は地域課題の争点化が今一つだった、というところです」

「政治とカネ」か政策か 候補者・有権者の関心にギャップあり?

記者の取材では、選挙当初は「政治とカネ」の問題が熊本県内でどれほど影響するか分からず、自民党関係者は「見えない敵と戦っているようだ」と表現していました。しかし選挙戦が始まると、有権者から「政治とカネ」の意見が聞かれないため、演説で扱う時間を短くする自民前職の候補もいました。

一方、野党候補に関しては、有権者からは「『政治とカネ』批判は分かるが、何をしたいのか政策が分からない」という声が上がりました。有権者の「野党候補=批判」というイメージが、票が伸びづらかった一因かもしれません。

伊藤教授「裏金問題は倫理的な問題で、必ずしも政策とはリンクしないところがある。大きな問題に感じる割には生活密着型(の問題)ではなく、必ずしも有権者の投票行動には結びつかないという面があった」

圧勝の裏側で…得票率から見る<比例代表>

一方で、比例代表では自民が得票を大きく減らすなど、各政党の明暗がくっきりと分かれました。投票率の増減のほか、候補を擁立した政党の数などの違いはありますが、前回の衆院選と去年(2023年)の参院選のデータを基に、熊本県の各政党の得票の増減を見ていきます。

ちなみに熊本県内の比例代表の投票率は今回が52.06%、前回参院選が49.13%、前回衆院選が56.39%でした。

《暗》の政党

【自民】8万票の大幅減

自民党の得票は、前回の衆院選と比べて約8万票減らしました。前回参院選と比べても約6万票低く、政権交代を許した2009年の総選挙(32万票)よりも少ない得票でした。全政党の中での得票率も前回衆院選の41%から今回は34%に低下しています。自民の4候補の得票は合わせて約43万7000票でしたが、比例票とは20万票近い差がありました。

選挙区では知名度などがあり「顔が見える」自民候補に投票しながらも、自民党派閥の裏金問題や物価高などへの不満から比例では自民を避けた動きが垣間見えます。

【自民党】の得票(得票率)

2024年衆院選:約24万1000票(約34%)

2023年参院選:約30万2000票(約44%)

2021年衆院選:約32万3000票(約41%)

【公明】「集票力」回復せず

県内の選挙区では候補を擁立せず、自民の4候補のうち3候補に推薦を出して比例に注力した公明ですが、こちらも前回衆院選と比べて約3万5000票減らしました。

10万票を割り込んだ前回参院選と比べれば、かろうじて10万票台に戻しましたが、組織の足腰が弱くなっていることに加え、政権与党の一因として自民党派閥の裏金問題の影響を受けたとみられます。

【公明党】の得票(得票率)

2024年衆院選:約10万票(約14%)

2023年参院選:約9万9000票(約10%)

2021年衆院選:約13万5000票(約18%)

【維新】野党第4党に転落

前回衆院選では選挙区での候補擁立を見送った日本維新の会は、今回4区で候補を擁立して比例と連動した戦いを展開しましたが、比例票は前回衆院選と比べて約1万5000票減、前回参院選からは約3万5000票減でした。

前回参院選では立憲を上回り、野党第1党の地位を得ましたが、兵庫県知事の問題や大阪万博への批判などで全国的に票を減らした影響は県内にも及んだとみられ、立憲や国民、れいわを下回り野党第4党に転落しました。

【日本維新の会】の得票(得票率)

2024年衆院選:約4万1000票(約6%)

2023年参院選:約7万6000票(約11%)

2021年衆院選:約5万7000票(約7%)

【共産】得票減に歯止めかからず

共産党は2区で候補を擁立し、比例票の掘り起こしを狙いましたが、前回衆院選から約1万票減らしました。

比例九州ブロックでは目標の2議席に届かず、かろうじて1議席を確保しましたが、6万票近く得ていた2014年の衆院選と比べても得票減に歯止めがかかっていません。

【共産党】の得票(得票率)

2024年衆院選:約2万4000票(約3%)

2023年参院選:約2万6000票(約4%)

2021年衆院選:約3万4000票(約4%)

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。