大リーグ・ドジャースの大谷翔平選手の元通訳・水原一平容疑者が関与した違法賭博問題で、容疑者が「私はギャンブル依存症です」と告白した報道があり、そこから「ギャンブル依存症」に関心を持った方が多いと思います。今回はギャンブル依存症を早期に発見するためのシンプルな自己診断テスト「LOST」を紹介します。

4つの質問のうち2つ以上該当でギャンブル依存症の可能性

ギャンブル依存症はアルコール依存や薬物依存と同じように、ギャンブルにのめりこんで生活の優先順位の第一になり、負け続けてもやめられない症状です。この依存症になると多額の借金をしたり、家族などからお金を盗むトラブルが典型的な症状として現れ、周囲の人間に多大な迷惑をかけてしまいます。最近はお金欲しさに特殊詐欺や闇バイトなど犯罪に手を染める例も増えています。

ギャンブル依存症は性格の問題や、一時的に魔が差した状態と考える方もいると思いますが、現在では薬物依存と同じ脳機能障害の病気と認識され、WHO(世界保健機関)も「病的賭博」という名称で正式に病気と認めています。ギャンブル依存症は病気なので、誰でもかかる可能性があります。その一方で適切な治療や支援を受ければ回復して社会復帰することも可能です。ただ、アルコールや薬物の依存症と違い、症状が見えにくいのも特徴で、多くの場合、多重債務など大きなトラブルが起きてから気づくことになります。

このように発見の難しいギャンブル依存症を、シンプルな方法で早期発見できるよう開発されたのが「LOST(ロスト)」呼ばれるテストです。「失われた」を意味する「LOST」と同じ綴りと覚えて下さい。「LOST」の「L」「O」「S」「T」それぞれを頭文字にした4つの症状を依存症の疑いのある当事者の行動に照らし合わせて、2つ以上にあてはまれば依存症の可能性が高いと判断されます。

「L」=Limitless(リミットレス)
ギャンブルをする予算や時間を決めても守れず、ずっと続けてしまう。

「O」=Once again(ワンス・アゲイン)
「もういちど賭けよう」と勝った分のお金を次の賭けに使って、ギャンブルの軍資金以外の用途として考えられなくなる。

「S」=Secret(シークレット)
ギャンブルをしたことを秘密にする。すでに周囲に注意されたり 心配されているので、人に隠してギャンブルを行う。

「T」=Take money back(テイク・マネー・バック)
賭けて負けたお金を、次の賭けですぐに取り返そうと考える。それによって負けた額が大きく膨らんでいく。

過去1年間のギャンブル経験で、これら症状のうち2つ以上に当てはまれば、依存症の可能性が高いと判断されます。

「LOST」を開発したきっかけとは

「LOST」は公益社団法人ギャンブル依存症問題を考える会や国立精神・神経医療センター、筑波大学、株式会社NTTデータなどが共同で2016年から研究を始め2年間かけて開発されました。

それまで同じような依存症の指標がなかったわけではなく、SOGS(サウス・オークス・ギャンブル・スクリーニング)と呼ばれる 同様のテストがありました。
ただしそれは設問数が多かったり複雑だったり、かなり専門的で、誰でも使えるわかりやすい形式ではありませんでした。

「LOST」はその難点を見直し、シンプルなテストになっています。開発に携わった公益社団法人ギャンブル依存症問題を考える会代表の田中紀子さんに、このテストを開発するきっかけを聞きました。

公益社団法人ギャンブル依存症問題を考える会代表の田中紀子さん
「いちばん使われてる『SOGS』というテストは、比較対象群がギャンブル依存者対一般人なんですよ。私たちはギャンブル依存症のツールはギャンブルをやる人を比較対象群に持ってこないと正確なもの、使えるものにならないんじゃないかと思ったんです。

ギャンブルを生活が脅かされるほどハマることなく楽しめている愛好家とギャンブル依存症の比較がこの研究であり、そこから生まれたのが『LOST』です。ギャンブル愛好家の人とギャンブル依存症の人たちの差は何なのかと研究をしていったら明確な差、有意差が出てきたので、スクリーニングテストにしたら非常に使いやすいんじゃないかって。

『これがギャンブル依存症者特有の考え方なんだ』っていうものが分かると、相談の電話があって話したときにも『そのように考えているということは、ギャンブル依存症だよね』と話をすると『そうです、そのとおりです』となるんです。当事者の共感が非常にあって、私たちも介入しやすい。非常に使いやすいというのはありますね」

ギャンブル依存症が疑われる人は日本に約320万人いると考えられています。加えて、今ではスマートフォンなどを使って気軽に公営ギャンブルの投票や違法なオンラインカジノなどができるため、依存症になってしまう人も急速に増えているといわれます。田中代表は次のような危機感を話していました。

公益社団法人ギャンブル依存症問題を考える会代表の田中紀子さん
「コロナ禍以降、オンラインのギャンブルというのが身近になっていて、若年化していて問題が広がっているなっていう風に思いますね。コロナが流行していた時には友達とも会えなかったし、退屈な時間に何しようってなった時にギャンブルをちょっとやってみて、ハマってしまったっていうような。

アルコールや薬物と違うのは、やはり国がやっている産業、公営ギャンブルによって被害を出していることなので、それに対して国や自治体が啓発や予防教育に力をいれていただきたいと思ってます。今後、統合型リゾート、IRという形でカジノの開業も予定されていることですし、きちんと国が知識と啓発に取り組むべきだと思ってます」

自分や家族、知人などがギャンブルにのめり込んでいると思う場合、まずは「LOST」でテストをしてみて下さい。そしてギャンブル依存症が疑われる場合、すぐに相談窓口や治療機関に連絡して下さい。ギャンブル依存症は適切な治療や正しい支援につながれば、回復可能な病気です。

ギャンブル依存症に関する相談は、各地域の精神保健福祉センターや、さきほどのギャンブル依存症問題を考える会などで受けつけています。

(TBSラジオ「人権TODAY」担当・藤木TDC)

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